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 持ち上がった顔が、屈む赤髪を視界に入れる。曇るレンズ越しに眉尻を下げたAが抜けた声を上げた。


「に、げ……?」

 なんで? そう譫言を呟いた唇が、雨の伝った端を引き攣らせる。至極不思議そうな面持ちで滲む赤紫を瞬かせる彼女に、カルマが続けた。

「逆に聞くけど、浅野さんはどうしたいの」

「どう、て…………何、なん、わかんない」

「じゃあ何でここまで走ってきたの。あんたは何を思ってこんな大雨の中傘もささないでここにいる」

 棘を孕んだ声に、湿った肩が竦む。アスファルトから上がらない視界が割れ目の雑草とカルマの靴を映して泳いだ。

 矢継ぎ早に見えて答えを考える時間を与えられた会話が、思考の猶予を生んで却って苦痛だった。

「それ、は……ぁ、あれ……」

 吃るAは、つなぎつなぎの言葉を吐き出すので精一杯だ。焦点も怪しい彼女に、カルマは更に追い打ちをかける。

「帰りたいの、帰りたくないの」

「か……帰らなきゃ、」

 彼の声に、弾かれたように視線が上向いた。前髪を伝っていた滴が空を飛び散ってアスファルトを跳ねる。

「そ、うだよ、帰らなきゃ。もう時間も遅いし、お母さんも心配するし、帰らなきゃいけないし」

「ちょ、ちょっと浅野さん!」

 ふらふらと立ち上がり傘から外れようと足を進ませたAに、慌てた渚が傾けていた傘を揺らす。が、経たずして彼の足も蹈鞴を踏んだ。じっとりと濡れた彼女のブレザーの袖を黒いカーディガンから伸びた手が掴み引き留めたからだ。
 振り返った彼女は、視界に誰も入れず虚空を見つめたままだ。

「帰らなきゃいけない、じゃなくて、あんたは、帰りたいの」

「だって、帰らないと」

「違う」

 つっかえるAの声を、ぴしゃりとカルマが遮った。怯んだ彼女が下げた眉尻をそのままに揺らいでいた視線を落ち着かせる。

「本当に帰らないといけない、って思うならわかってるのに何で浅野さんはここまできたの

どうしても家にいたくなかったんじゃないの」

「っう、ぁ……」

 綻んだ口元から声が零れる。脳裏を占めるのは、過去ではなく先程の母親の姿だ。取り繕う、嘘に嘘を重ねようと、誤魔化そうとした声に、飛び出してからそう経っていない。何故足が止まらなかったのか。考えるのをやめたかったから、それだけだった筈だ。

 しかし、もしカルマの言うように、何か別の理由があるのなら。

 増した雨足が、誰にも見られていないのだと彼女の背を押した。


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(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年3月22日 20時

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