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長所を、長所だと思ったことはあまりなかった。寧ろ、
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限界まで水を吸った重い足で、また一つ浅い水溜まりを激しく波立てる。濡れた視界で覚束ない足取りが何度かもつれるが、踏ん張ってAはひた走った。息はまだ浅い。それでも止まらなかった、止まりたくなかった。考える余裕を与えられてしまうのが今は一番恐ろしかった。
本降りの中を身一つで駆け抜けてゆく彼女に、傘越しの視線が刺さる。色濃く染まったブレザーとスカートがべったりと冷えた身体に張りつくのが鬱陶しいとは感じなかった。そんな余裕すらなかったともいえる。
聞きたいことなど沢山あった筈だ。学秀のこと、父親のこと、頼子のこと、學峯のこと、A自身のこと。同時に、その全部を振り切ってしまいたかった。
逃げる場所も帰る場所も、今はどこにもない気がした。ただ、どこかに居続けたくなかった。
「…………あ、ぁ」
体力に自身があるとはいえ、走り続けていればいつか限界が訪れる。おまけに酷くなった頭痛を携えたAは、口で大きく呼吸をしながらふらふらと足取りを緩めた。引きずられるように進む足がローファーの中で悲鳴を上げている。
見覚えのある歩道と、そこから続く山道が彼女の澱んだ目に映ったのは直後のことだった。
思い出したように肩を上下させて酸素を巡らせながら、乾いた喉から声が漏れる。普段なら電車で通学している距離を脇目も振らずに走ったのだから無理もない。
何も考えず、Aの求めた行き先は
寒さを思い出した指を季節外れに悴ませ、Aは山道へのぬかるんだ入り口に歩み寄る。誰がいてもいなくてもいい。ただ瓦礫の山になった心をひとところに置いておきたかった。
否、A自身気付かないだけで誰かに投げ打ってしまいいと奥底の感情は煮えていた。そして、
「あれ、浅野さんじゃん。忘れ物?」
その
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時