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数日で色々と重なり募った苛立ちを自覚したAは、深く息を吸って整えたばかりの髪を一掴みぐしゃぐしゃと掻き乱した。感情を露わにした乱雑な態度に複雑な表情をしていた学秀から険が削がれる。集会後の対峙とは逆の状況に、当の二人は気付かなかった。気付く余裕すらなかったともいえる。
口を噤んだ彼に代わり、Aが続けて言葉を紡いだ。湛えた笑顔はどこか自虐的で、強くなった雨足のせいか鬱屈としている。
「……この間も、もう私に関わらないでって言ったよね……おかしいよ学秀君、私達ただのいとこなのに傍にずっといるべきとかさ……
学秀君も、学秀君をずっと受け入れてた私も変だよ。だってこれじゃ、」
咎めるように一際強く雨樋を叩く水音が、それ以上はいけないと駆け足になった少女の声を咎める。彼女に待ったをかけたのはそれだけではなかった。
反駁の欠片もない、普段の雄弁さを失った目がAを真っ直ぐに見つめていた。今にも縋りつきそうな迷い子に、どうして貴方がそんな顔をするのかと理不尽を唱える声がどこかで喚いている。
みんな、みんな好きでみんな大事なのに、大事な人が他の大事な人から私を引き離そうとして、____のはこっちだというのに。
「…………ごめん、帰る」
「っA、話はまだ」
「話すことなんてもうないから」
きゅうと瞳の輪郭が滲むのに蓋をするように、眉を歪ませ目を伏せたAは学秀から視線を外して軒先の外に飛び出した。細い制止の声を振り払おうと遅れて傘を広げ水溜まりにも構わず滴を跳ねさせる。額に僅かに伝った雨が、零れ落ちかけたものを洗い流してくれるのは都合が良かった。そんなことが許されない、そう言われているような気さえするほどに。
頭が、握り潰されたように痛い。
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話半ばに切り上げたAは、自宅の玄関の前でずぶ濡れの傘を畳むまで気分が晴れなかった。この数日、殊今日は色々と積み重なった上に雨のせいで調子も狂っている。
コンクリートの溝に滴った水が格子状に広がるのを、俯いてぼんやりと見つめる時間が冗長的に過ぎていく。敷居を越えるのを躊躇っているともいえた。その理由はわかっている。わかっていても立ちん坊になっているわけにはいかなかった。
母の待つであろう家に入ろうと、傘のボタンを留めたAは冷えた指先で取り出した鍵を鍵穴に差し込んだところで、捻りかけた手をぴたと止める。
「開いてる……?」
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時