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「学秀君、どうしたの?」
知らぬ間に引き下がっていた口角を上げてAは自分を呼んだ少年──学秀と向き合った。漏れ出た言葉を深掘りされる前に首を傾げて尋ねると、答えより先に学秀が彼女の前に辿り着く。
少し高い位置に掲げられていた彼の傘がAの傘に差し掛かった。赤い軒先から零れ落ちる粒が学秀の靴をぼたぼたと濡らす。
「ちょ、靴が」
「少し、話さないか」
遮った声は、何かに雁字搦めで強張っていた。返事をする前に、学秀はすぐ距離を取って校門とは違う方向へ歩き出す。Aが当然ついて来るものだろうと高を括っているのか、それ以外の可能性を考慮できない程の焦燥に苛まれているのか、背中を見せた彼の顔は見えない。
彼女にとってはどちらでも構わなかった。理由が何であれ、何か堪えるような表情をするいとこを放ってはおけなかった。
学秀に追いつこうと、Aは小走りで彼の後を追う。足を着いた拍子の振動でまた一つ、つきんと頭痛が波打った。
学秀の足が止まったのは校門からそうかからない、体育館の出入り口の一つのすぐ近くだった。広くはない軒下で傘を畳んだ藤色の目が、促すように彼女を見据える。意図に気付いたAも、色濃く染まるコンクリートに新しい足跡を残した傘を萎ませた。
「どうしたの、わざわざこんな人のいないところで……」
言いかけて、Aは僅かに身構えた。二人のいる出入り口は閉め切られており、普段なら外を通ることの多い運動部も雨で室内に引っ込んでいる。加えて有無を言わせない学秀の態度に、否が応でも全校集会の後のことを思い返していた。
「そんな顔色でよく平然と言えるな」
しかし、学秀の投げた返事は思いの外優しいものだった。棘を多少があるものの、その空気は修学旅行で隈のある彼女の目元を労った時と似通った柔らかさも残していた。
「そんな、って……私顔色悪かった? 嘘」
彼の言葉にAも思わず空いた手で自分の頬や額をぺたぺたと触る。熱もなく、今日一日誰かに何か言われてもいないのだ。クラスメイトは勿論、観察眼の優れた渚や話すことの多いカルマ、二人以上に敏い教師陣ですら同じくだ。何より、彼女自身が不調ならすぐ気付いている筈なのだ。
訝しむいとこに、学秀も短く息を吐く。
「誰にも気付かれなかったんだな……ずっと一緒にいたんだ、Aのことは僕が一番知ってるに決まってるだろう
……誰に何をされた? 何を言われた」
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時