浅野の時間・3時間目-2/8 ページ2
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保留とはいえ、自分の意志をいつぶりか示したAは焦燥と高揚に身を埋めていた。仕事の合間を縫って面談にかけつけた頼子が旧校舎を後にするまで、呼吸一つすらぎこちないままだった。
少し経って強張っていた身体の力が抜けてからも、彼女の頭の中はぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。単なる親への反抗、と一言では済まない居心地の悪さが肺を重くする。
E組を抜け本校舎に戻るのが正しい、それは理解はしていた。それでも、Aの随が拒んだ結果が、保留という形で彼女の口から転がり出た。すべきことと望むものが真逆の方向に突っ走って雁字搦めの心を引きちぎりにかかる。
「あの、すいません先生私──」
何に謝ったのかわからないまま、Aは謝罪を口走りかけた。冷えた指先がスカートの裾を手のひら一つ分ぐしゃぐしゃにするのを止められないまま烏間を見上げる。決断を先延ばしにしたこと、正しいことから逃げたこと、心当たりはいくらでも挙げられた。
「よく頑張りましたね、浅野さん」
開け放たれていた教員室の窓の地平線から、黄色い太陽がぬっと顔を出して少女の言葉を遮った。己に棘を向けた謝意を留めるように。
「殺せんせー……そこにいたんですね」
骨を感じさせない柔軟な動きで教員室に滑り込んだ殺せんせーが、淀んだ表情を崩さないAを横目に帽子を軽く整えた触手で彼女の頭に触れる。
「当然です。大事な教え子の面談の内容を聞かないはずがないでしょう」
先生からすれば、特に目の前の生徒の保護者について気にしていた節があるのだが、そこまでわざわざ伝えることはせず労いの意を込めて手入れされた髪を柔らかく撫でた。
きっかけは、修学旅行二日目にAが行った単独暗殺だ。正確にはその後、堪えるように引き結ばれた唇を恐る恐る解いた彼女の言葉、について。一度の失敗をああも恐れ、二度目の挑戦を罪のように悔いた姿は、齢十四歳には相応しくなかった。
恐れるのはその経験があるから。強く悔いるのは
では何が彼女をそうさせたのか。
先天的なものでないとするなら環境が彼女をそう育てたのだ。生徒の保護者の意図が知りたいこともあり、壁一枚挟んだリスクの低くない隠れ場所に殺せんせーは身を構えていた。
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※データ少し消えてしまって書き直しました……! 話の大筋までは変わりません
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時