手の中の選択肢/ky ページ30
可愛くラッピングされたチョコレートを持って私はため息をついた。
「意気地無し……」
今日は2月14日、バレンタインデーだ。好きな人にチョコレートと一緒に想いを伝える日。私が先程からずっと眺めているこのチョコレートだって、いわゆる"本命チョコ"だ。
キヨくんに渡そうと決意して多分もう30分は経っただろう。そんなに時間が経っていると帰ったんじゃないかと言われそうだが、それは心配ない。何度も下駄箱を確認してはまだ靴があることに安堵しているのだ。
しかしいつまでもここでため息をついてばかりでは何にもならない。勇気を出して私は振り返り、足を進めようとした。
「あれ、A？」
聞こえたその声は間違いなくキヨくんで、私は固まってしまう。無意識でチョコレートを背中に隠した。
「誰か待ってんの？」
貴方です、なんて言える訳が無い。いつもより今日は更に胸の鼓動が速い気がする。
「特には……キヨくんは今から帰るの？」
「うん。Aは帰んないの？」
「……私もそろそろ帰ろうかな」
本当に馬鹿だ。完全に今が渡すタイミングだったはずなのに帰ってどうする。
「今日、バレンタインだな」
「え？あっ、ああ、バレンタイン……だね」
「Aは誰かに渡さないの？」
チョコレートを持つ手が反応する。誰もいない、音の無い、昇降口。きっと今だ。
「あの「あのさ」
私の声とキヨくんの声が重なった。目を逸らす事も出来ずに、息を止めて私はキヨくんを見つめたままだ。
「チョコ、どっちに入ってると思う？」
ぎゅっと握った手を私の目の前に差し出す。キヨくんが何がしたいかも何を考えているかも全く分からない。当てたらチョコレートでもくれるということだろうか。私は右を指す。開かれた手の中には、1口サイズの小さなチョコレート。
「ねえ、A。……好きだよ」
鈍感じゃない。恐らく、彼の言う好きは私と同じ好きだ。でも信じれずに勘違いじゃないのか、夢じゃないのか、と考える自分がいる。
「Aが当てたら告白しようと思って。ほんと咄嗟に思いついたことだったけど。付き合って……くれる？」
顔に手を当てて頬を赤く染める姿なんて初めて見た。きっと今なら言える。
「私もだよ。キヨくんが、好き」
私は背中に隠していたチョコレートを差し出す。
「よろしく」
はにかみながらもキヨくんは手を差し出してきた。
自分より大きなその手を私は、ぎゅっと握った。
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蘭(プロフ) - なめこさん» そう言ってもらえてとても嬉しいです。これからもキュンキュンするお話頑張って書きます！ (2020年1月8日 6時) (
レス) id: c4a54b0710 (このIDを非表示/違反報告)
なめこ - めっちゃキュンキュンしました！ (2020年1月7日 21時) (レス) id: 136e05d453 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蘭 | 作成日時：2019年11月30日 10時
