紅一点、君は百点、僕らは満点

. ページ41

、


小さい頃に観ていたアニメがテレビから流れてくる。

タイトルはわかるのに
最終回まで見たのか、どんな内容だったか

まったく思い出せない。



あの頃は夢中で観ていたものも
大人になるにつれ忘れていく。


それでも、見返してまた夢中になって
たまに子供に戻るのも悪くない。



Aさんが用意してくれた飲み物や食べ物に手を伸ばす。
Aさんをチラッと盗み見すると、真剣に画面を見つめている。


出会った頃、この人の隣でアニメを観る未来なんて想像してなかったな…。


随分と小さい人だなというのが
第一印象だったかもしれない。

ダンスのエネルギッシュさに驚いたけど
でもやっぱり第一印象は小さいだったと思う。


どんな会話をしたかも覚えていないけど
第一印象だけは覚えている。




「ゲームする？面白くなかったかな？」

映像が停まり、隣の人を見ると心配そうにこちらを見ていた。



「いやいや面白いですよ！もう少し観ましょう」

「そう？…じゃあ、この回終わったらゲームに変えようね」


「はい」


考え事をしているのも悩んでいることも
疲れていることも

いつだって１番最初に気づいてくれる。


この部屋を出ればいつもAさんを取り合う戦いが始まっている。
その勝てそうにはない試合の真ん中に混ざりにいくほど怖いもの知らずではない。




だからAさんを取り合うこともなく

２人で平穏な時間が過ごせるこの部屋は


城ってやつなんだと思う。



なんだっけ、がじゅ？とかいうやつ。


「ねぇAさん」

「ん？」

「あの、なんだっけ、自分のお城てきななんか言う言葉！がじゅう、みたいな」



Aさんはざっくりとした俺の言葉に考える顔をして笑う。


「牙城、のことかな？」

「がじょう？」




、

.→←S.T

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す