３９２．side 松岡 ページ49
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「一人で大丈夫か？」
庁舎に向かう痩せた背中に声を掛けたが、振り向きもしない。
「もちろん。
ただの手紙だよ」
だったら何故、せいぜい数枚の手紙を読むのに、今日は帰れないなんて言うんだ。
封を開ける覚悟がつくまで、相当な時間が必要ということだろ？
尚更、放っておくわけにはいかない。
ただ、こういうときの大野の頑固さは折り紙付きだ。
拒み続けていた灰嶋の手紙を読まざる得なくなったのは不本意であっても、自分に宛てた私信とあれば、一人で読むことを譲らないだろう。
あいにく今晩は、ダシに使えそうな領もいない。
さてどうしたものかと思っていたら、櫻井が大野を小走りに追いかけ、後ろから腕を掴んだ。
振り返った大野に、翔は。
「一旦帰って、出直すよ。
終わったら連絡して。
何時でもいいから」
大野は眉を顰めて、首を横に振った。
「駄目。
待たずに寝て。
明日も診療があるでしょ」
「眠れっこないじゃん。
あ、ホテルに泊まるのとか、なしだよ？
もちろん検事室も。
連絡くれなきゃ、俺、完徹だからね？」
腕を掴んだまま、目をしっかり見て、大野を牽制する翔。
「………」
翔に先周りされて、大野は黙り込んだ。
やろうと思えば、掴まれた腕を振り解くことは出来る。
でも、そうしない。
力尽くではない、何かが大野を引き止めていた。
大野はかつて、さくら荘と決別して、京都の囮捜査に突っ走ったことがあった。
目的は果たしたものの、命を落としかねない無謀な賭けで、俺らは随分肝を冷やした。
あのとき、翔は、自分の手を振り払って飛び出していく大野を、ただ見送ってしまったことを、後々まで悔いていた。
大野の前に回り込んだ翔は、顔を覗き込みながら念を押した。
「連絡してよ？
みんなで待ってるから」
大野のトラウマと危うさを、誰よりも理解し、案じている翔。
どんなに拒まれても、諦めることなく寄り添い続ける親友の思いに、大野が気付かないはずも、気付かないふりが出来るはずもなかった。
爪先が庁舎を向いているのに、大野の足は完全に止まった。
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kotorix(プロフ) - seriさん» seriさん、ご無沙汰しておりました！お懐かしい…。長らくの更新停止、申し訳ありませんでした。お立ち寄りいただき嬉しいです！不穏な展開になっていますが、心を込めて書いてまいります。他作品も更新再開いたしましたので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月15日 0時) (
レス) id: 5cfd22b9da (このIDを非表示/違反報告)
seri(プロフ) - ご無沙汰しております。ふと、思い出し立ち寄らせていただいたところ、再開されてて、わくわくドキドキで読ませていただきました。それぞれのそれぞれらしい優しさにひきこまれます。早く結末が知りたいような、いつまでも終わって欲しくないような... (2020年12月8日 15時) (レス) id: a3888f4905 (このIDを非表示/違反報告)
kotorix(プロフ) - 領径さん» 領径さん、はじめまして。いつも有り難うございます！長らくお待たせして申し訳ありませんでした。この物語は2012年1月に始まりました。当初年中さんだった領は小学校3年生に。長い物語もようやく終盤、目下最大の難局を迎えています。引き続き宜しくお願い致します！ (2020年10月26日 1時) (レス) id: 5cfd22b9da (このIDを非表示/違反報告)
領径(プロフ) - はじめまして。kotorix様のお話が大好きで全て楽しませて頂いています。このお話は特に何回も読み直してるぐらい大好きなので更新本当に嬉しいです！ これからも応援しています！ (2020年10月26日 0時) (レス) id: cbdbde624a (このIDを非表示/違反報告)
kotorix(プロフ) - すずさん» すずさん、はじめまして。足かけ8年のこの長い物語をお読みいただき、有り難うございます。登場人物の関係性は最も大切にしている部分です。一層丁寧に描くよう心がけて参ります。次回はパートを移行して、さくら荘の住人を総動員してお届けする予定でございます(^^) (2020年10月25日 2時) (レス) id: 5cfd22b9da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：kotorix
| 作成日時：2019年3月13日 10時
