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私がそう続けると、彼は愉快だと笑い始めた。
隠そうともしない“ヴィラン特有の悪意”
笑っている分には子供らしいのに、彼の瞳は握りきっていた。
今の距離で、彼の個性は発動できない。
自分にそう言い聞かせ、私は不安を悟られないよう彼の瞳を見据えた。
「お人好しなんだな。俺がその“不審者”だとは思わなかったのか？」
『見た目はちょっと怖いですが、その不審者は40代後半の方が多いので。
警戒するに越したことはないんですけどね……』
そう言い私は苦笑いを浮かべる。
見苦しい言い訳だったが、
これで頭の弱い人という印象はついただろう。
とにかく距離を取れ。
そのためにはいくらバレていようが知らないふりを決め込むんだ。
まずは此処から離れる口実を作るんだ。
半歩下がる…気づかれてはいない。
お互い無言の時間が続く。
彼は“何故お前も帰らないのか”と言いたげに細められていた。
『何処か体調が悪いんですか？』
「いや……待ち合わせだよ」
『でしたら彼処の公園でするといいですよ。
そろそろヒーローのパトロールも始まります。
今のままだと絶対職質されますからね』
彼は堪忍したと言いたげにため息をつき、
口を開いた(手で見えないが、息を吸い込む音が聞こえた)。
「お前も早く帰ればいいじゃないか。怪しまれるんじゃないのか？」
『制服でわかると思いますが、これでもヒーローの卵です。
これから起こる犯罪を防げるかもしれませんし』
「はあ、分かったよ……今日は帰ってやるさ。
＿＿＿じゃあ、またな。Aさん」
彼がそういった瞬間、後ろに開かれるのは「黒霧」によるワープゲート。
そうだ、ワープゲートで連れ去られる可能性だってあったんだ。
完全に忘れていた。………運が良かったとしか言いようがない。
それを理解すると同時に感じる“またな”という言葉の恐怖。
ヒーローなのに不甲斐ないな。
地面にへたり込み、乱れた呼吸を必死に治そうとする。
大丈夫、私のしたことは間違いではない。
この行動で人を救えたかもしれないんだから。
私は冷や汗を拭い、雄英に電話をかけた。
『3年A組の、報知Aです。
たった今、ヴィラン連合の死柄木弔に遭遇しました。
場所は××の路地裏。横には緑色の喫茶店があります。
被害はありません。彼は誰かと会う約束をしていました。
現在、黒霧のワープゲートにより逃走中です。
…はい、死柄木は……私の名前を知っていました』
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作者名：花氷 ベタ | 作成日時：2022年10月1日 18時
