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ヒーローでもなく、ヴィランでもない時。
首をゆるりと締める、あの枠組みを忘れていい時。
それは「日常」だ。
『普通に生きている日常。勿論“学校”の中ではいけませんけどね、』
『つまり私のそばにヒーローがいない時。
お友達になりましょう』
トガが私の言葉の意味を理解した瞬間見せた、嬉しそうな顔。
それが幼い子供のように見えてしまった。
「え、じゃあAちゃんって呼んでいいんですか？」
「一緒に遊びにいっても？あの子たちみたいに遊べるの？」
その問いに頷けはしなかった。
狙われている彼女のことだ。
個性を使っても、やはり普段の日常動作でバレてしまうだろう。
それでも。
(今は彼女の欲求を満たさないと)
(一網打尽にされる)
まずは情報を持ち帰る。生きて帰る。これが鉄則だ。
冷や汗が背中に垂れる。今私の置かれている状況は危険すぎた。
一秒でも早く帰って、ねじれちゃんに抱きつきたい。
そう思っても、あんなに嬉しそうなトガを見ていると絆されてしまいそうだ。
敵であるはずなのに、ここまで喜ばれると申し訳なくて、少し嬉しくて。
『ねえトガちゃん』
「えへへ、なんですか？」
『私、やる事があるから元の場所に帰りたいな』
「それは無理です！」
その言葉が合図だったかのように、突如手を掴まれかける。
私も咄嗟にマイクを起動し、距離を取る。
しかし中はバーだ。ろくに離れられやしない。
マイクを威嚇するように見せて立つと、黒霧が呆れたようにため息をついた。
「あんまり意地悪すると、嫌われますよ」
「えーちょっと遊んだだけじゃないですかあ」
命をかけた遊びだなんてごめんだ。
……本当に仲良くなれるのかな。
「Aさん、元の場所にお戻しします…勿論、この事は他言無用で」
『分かっていますよ。じゃあね、トガちゃん』
「わああ、またね！Aちゃん！！！またね！！」
＊＊＊
目を開けたら、私はショッピングモールから少し外れた路地裏にいた。
周りには猫1匹もいない。私だけ。
『か、はっ…』
やっと息が吸える。
ヴィラン連合のあの温かさが、不気味で、怖くて。
……ヒーローとヴィランの違いをわからなくさせる。
もうこれで、トガが一般人を友人にしようとすることはないだろう。
ヒーローも狙われる頻度も減るはずだ。
だから、大丈夫。でも、
『(また、言えない秘密が増えてしまった)』
その事実が寂しくて、どうも苦しかった。
××
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作者名：花氷 ベタ | 作成日時：2022年10月1日 18時
