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何十分か経った気がする。
この空き教室には時計が無いせいで、本当の時間経過は分からない。
今だに環ちゃんは私を離さない。
足が震えるのも、彼女の私を抱きしめる力の強さも。
少しだけ慣れてしまった。
廊下はガヤガヤとしていて、休み時間であることを知る。
それでもこの部屋は、無音で埋め尽くされていた。
「……
「私たちは仲のいい友達で、ライバルで。そしてほんの少しだけ特別な関係」
「人肌が恋しくなっただけ」
「信じて、本当に……それだけなんだ…」
肩が濡れるのに気づいた私は“彼”を抱きしめる力を強くする。
それに呼応するように彼のすすり泣く声も大きくなった。
『ねえ環くん』
「……どうしたの」
『環くんにとって、私はどうあれば良い？』
『どうすれば私が原因で、貴方が泣かなくて済む？』
視界がゆがむのは紛れもなく、胸の痛みからだった。
＊＊＊
環視点
『ごめん、私が泣く必要無いけど』
『不甲斐なくって』
不甲斐なくなんてないのに。
貴方に触れていると自覚した瞬間から高鳴った鼓動を聞かせたい。
俺のせいだ。
俺がこの先を望んだから、彼女が困惑している。
それなのにこの思いを伝えることはしなくて。
濁そうとした言葉で再び彼女を悲しませた。
時間が来る。
そろそろミリオは俺の抜け駆けを疑い、空き教室に突撃するはずだ。
だからその前に。
「少しだけ、寂しくなっただけ」
「Aさんは“友達”だから、甘えちゃったの」
彼女の顔を見ることができない。
恥ずかしさからではなかった。
友達の貴方に恋をしたと言う申し訳なさから唯、泣いた。
ねえ、今だけは、女の子の今だけは。
彼女と同じ立場になって。
男女の友情など存在しないことを理解した上で。
大好きな貴方を安心させる。
それだけが俺にできること。
××
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作者名：花氷 ベタ | 作成日時：2022年10月1日 18時
