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彼は制服を握りしめながら、言葉を続けた。
「確かに重要な試験だから、逃げる事は難しいと思う。
でも、ヒーローになる前に死んじゃったら、意味ないじゃんか………」
そう言って顔をくしゃくしゃにした環くんが、
泣くのを堪えるように顔を背けた。
私も、環くんも、ねじれちゃんも、
言っていることは筋が通っている。
どれかを大切にしようとすると、誰かを傷つけてしまう。
何も言えなくなった。
ヒーローを目指す上で必ず来る葛藤に、足がすくんだ。
出来てしまった暗い雰囲気をぶち壊すように、
ミリオくんは環くんもねじれちゃんも巻き込んで、私を抱きしめる。
「俺、Aが生きていてくれてよかった。
ヒーローになる上で、避けられないとは分かっているけど」
今だけは泣いてもいいんじゃない？
そういうミリオくんはもう泣いていて。
今日だけは、この瞬間だけは、4人でお互いを思って泣いた。
＊＊＊
「目、腫れてるぞ」
『昨日友達が、来てくれたので』
私がそういうと、相澤先生は“友達か、”と呟きながら椅子に腰をかける。
先生は私に謝罪をしにきてくれたらしい。
ヴィランの作戦であることを知らずに、goサインを出したことを。
後日正式に謝罪に来てくれるという。
そんなの、雄英は悪くないのに。
「……おい、何かあったのか？」
先生に、昨日抱えた矛盾した気持ちを、素直に伝える。
こんな我儘のような質問に、真っ直ぐ答えてくれた、
「……そうか。まあ、彼奴らの考えは、確かに“甘え”だと一喝されるかもしれないがな」
「ヒーローだからといって、怪我をするのが仕事じゃない」
「ヒーローはな。人を救うことが、仕事だ」
相澤先生のその言葉を聞いて、何か大きなものを受け止めれた気がする。
その感覚に何も言えずにいると、
クラスメイトたちの声と、ドタバタとした足音が聞こえてきた。
「後はお前の友人たちに任せるぞ」
ありがとうございます、相澤先生。
そして入れ違いになるようにして入って来た彼らに、私は最大級の笑顔を見せた。
＊＊＊＊＊
相澤視点
怪我が“元からなかった”ように治っている彼女。
Aが救助されたあの現場の近くには“偶然”治癒能力を持つ人が“複数人”いた。
「(＿＿＿＿もう、やめてくれ、)」
どうかもう彼女から何も奪わないでくれ。
ヴィランの手のひらで正しく踊る彼女は、どうも苦しげだった。
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作者名：花氷 ベタ | 作成日時：2022年10月1日 18時
