忘れたくない3【YG・JM】

81.記憶の鍵と知らされる真実 ページ39

美貴さんが帰った後、今までの出来事が殆ど思い出せない事に改めて言い知れない不安が押し寄せていた。
少し前から、自分がおかしい事には気付いてる。
特に、佳織と秀人君と話をしている時、噛み合わない事が多かった。
そういう事は覚えているのに…


BTSのメンバーとは一週間くらい関わっていたみたいだけど、それを微塵も思い出せない。
そんな凄い事を忘れる方がどうかしている、と思うくらい特別過ぎる出来事なのに…
特別過ぎるが故に現実味のない話で、夢なんじゃないかと思う…


(どうせなら、佳織との嫌な思い出を忘れたかったな……)


考えるとモヤモヤして息が詰まる。
気分転換に夕方から散歩へ出掛ける事にした。
薄暗くなり、風も冷たい。
でもその冷たさが、今の私には心地好く感じる。


当てもなく歩いてるけど、こうやって道だって覚えてる。
(やっぱり、忘れてるなんて勘違いなんじゃないかな…。
BTSとの事が完全に夢なんだよ。
もう、そうとしか思えない…)


『……………』


(はぁぁ…なんか虚しくなってきた…
美貴さんの言う事が本当なら、ちゃんと思い出したいな…)



ふと、ジミンの顔が過る。



(夢にも出てきたけど…何故だろう…)
ジミンを思い出すと悲しくて、胸が苦しい。



(この前から一体なんなの…)



そんな事を思いながら歩いていると、前方から来た人にすれ違い様に声を掛けられた。



「あの…」

『…はい？』



知らない男性だった。
いや…何処かで…
手に小さな紙切れを持っている。
(地図…？道にでも迷ったのかな…)



『あの…どうしました？』

「いや……えっと…」

『？？？』

「…………」

『…………』



なんだろう、この沈黙…


(まさか！！変質者！？
いきなりコートをガバッ！って広げたり…
いやいやいや、そんな事はないか。
やるならとっくに出してるよね…)


でも、この変な雰囲気…
早くこの場を立ち去りたい。
訝しげな私の表情を見てか、その男性は気まずそうに切り出した。



「……んなさい…」

『え？』

「ごめんなさい…。」

『…………？？』



(何が、ごめんなさいなの…？)



また沈黙が続く。



(どうしよう…
めちゃめちゃ怖いんだけど…
何て答えたら良いの…)



「私は、笹原と言います…」

『笹原………』

「佳織の兄です…」

『え…』



この佳織の兄だと名乗る人。



(突然…何？
これも何か仕組まれてる…？)







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