epi.44 気付き ページ46
Your side
その後終電もあるということで、日付が変わる前に会はお開きとなった。
といいつつも、オフィスに泊まり込むつもりの人達も一定数いるようで、宴会自体は続いていた。
｢帰る？｣
『うん。河村さんは？』
｢僕も帰るかな。｣
『そ、じゃ一緒に帰ろ。皆さんすみません、お先に失礼します！』
そうみなさんに声をかけると、
｢えー！Aちゃんも帰っちゃうのー？｣
まだ飲めるでしょ〜？なんて酔っ払いの常套句で絡まれてしまう。
しかし、
『すみません、残りたい気持ちは山々なんですが生憎来月試験も控えておりまして…』
試演会とかレッスン詰め込んじゃってるんです、と謝ればみなさん一気にあぁ、と遠い目になる。
どの分野でも試験は辛いものなのですね。
｢そりゃしゃーないわな。気をつけて帰りなさいね。あ、片付けはこっちでやっとくから。｣
『何から何まですみません。みなさんも、試験明けたらいっぱい奢って下さい！』
と、自分が後輩なのをいいことに図々しいおねだりをしてみたら、行こう行こう！なんてノリのいいお返事をくださる。
そんな訳で非常に名残惜しい中オフィスを後にした。
たぁ兄と歩く真夜中の道。
｢楽しんでたねぇ。｣
『楽しかったもん。たぁ兄は？なんか須貝さんと色々話してたやん。』
たぁ兄の声が右側から聞こえてくると、やはりどこか安心感がある。
｢まぁね。あなたこそ色んな人と話してたけど、疲れてない？｣
『…実はちょっと音酔いしてた。』
最近、音の多い場所に居るとこういう事が増えた。
左右で聞こえる音量が違うことによって音の方向感覚が狂ってしまい、頭がグラグラしてくるのだ。
｢それ大丈夫なの？｣
あんまり話さない方がいい？と心配してくれるたぁ兄に、
『大丈夫。たぁ兄の声は落ち着くから。』
と答えれば、ただでさえ大きな目を更に大きくした後、大袈裟にため息をつかれる。
『何よ。』
｢いやぁ、もう、僕には分からんよ。｣
自嘲気味に言う彼に、意味分かんない、と笑えば数秒じっと見つめられる。
『何？』
と聞けば、また大きくため息をつかれてしまった。
よく分からんなぁ。
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作者名：きゃる | 作成日時：2021年9月10日 10時
