epi.38 飲み会 ページ39
Your side
街はすっかりクリスマス一色。
それもそのはず、今日はクリスマスイブだ。
とはいえ我々藝大生、特に音楽学部の学生達は、来月に控える実技試験に向けてラストスパートと言わんばかりに試演会やレッスンの予定を詰め込んでいるため、とても浮かれている場合ではない。
まぁ、中には恋人同士で辛い現実から少し離れたところで一息つく者たちもいるのだが。
最も、私はもれなく前者の内の1人で、今日も朝から自宅の防音室に資料や楽譜を持ち込んで籠り切っている。
『生憎独り身なのでねぇ。』
誰にも聞こえない独り言は、あっさり吸音性の高い壁へと吸い込まれていった。
とはいえ、QuizKnockに入ってからなんだかんだ慌ただしく過ごしていたため、こうやってゆっくり音楽と向き合うのは少し久しぶりかもしれない。
この時間はとても難儀な時間だが、同時にとても楽しい時間でもある。
さて、あまりにも偉大なこの人は、一体どこから声をかければ私に振り向いてくれるだろうか。
すっかり書き込みが増えたのに、まだまだ分からないことだらけの楽譜を目の前に、今回も長期戦を覚悟する。
とはいえ、たぁ兄にそれはもうこっぴどく叱られた事があるため、ちゃんと飲み物は用意したし、アラームは数分おきにセットした。
これで寝落ち対策も万全だ。
さぁ、今日も戦おうじゃないか。
・・・
連続した無機質な音に、ふと現実に引き戻される。
気付けば練習開始からかなりの時間が経っていたようで、時刻は夜7時を過ぎていた。
どうやら昼食を取り損ねてしまった様だ。
そう気が付いたが最後、急激にお腹が空いて来てしまって。
メッセージアプリの1番上、彼の名前をタップする。
お腹が空きました。
と、一言送信すれば程なくして既読がついて、シュポンと吹き出しが飛んでくる。
今日この後オフィスで飲み会みたいだけど来る?
『行きますよそりゃ。』
思わず口に出しながら送信した。
今年は久しぶりに誰かと過ごすクリスマスイブになりそうだ。
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作者名:きゃる | 作成日時:2021年9月10日 10時