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福良side
撮影後、打ち上げと称したAちゃんと仲良くなろうの会に問答無用で参加する事になった。
最初はAちゃんを質問攻めにするであろう伊沢のストッパー役になるつもりでいたのだが、色々話しているうちに自分も色々興味が湧いてしまい、結局僕もかなり彼女を質問攻めにしてしまった。
ただ、その分収穫も沢山あった。
こう見えてかなりお酒に強いこと、昔から折り紙が得意であること、関西訛りはお母さん譲りであること、音楽以外に言語も堪能であること。
話せば話すほど魅力が溢れてきて、本当にいい子なんだという事がひしひしと伝わってきた。
これは確かに、伊沢がうちに誘いたくなる気持ちも分かる。
けれど、同時に本当にクラシック音楽が大好きなんだということも痛烈に感じ、スカウトするのはなかなか厳しいだろうな、とも感じていた。
「うわぁ、来て欲しいなぁ。」
絶対楽しいって、なんてグチグチ言いながらお酒を飲む伊沢に、
「まぁ、AちゃんもAちゃんで色々頑張ってるからね。」
その気持ちも分かるけど、と窘めていたら、Aちゃんがまさかの発言をした。
『え、私入社してもいいですよ?』
「え、マジ?!」
「いやいや、そんな事言ったら伊沢本気にしちゃうから。Aちゃんだって練習とか色々忙しいでしょ?」
『本気です本気です。だって私、大学出たらピアノ辞めるつもりでいるんで。』
「え、なんで?!」
思わず大きな声が出る。
伊沢も相当驚いている様子だ。
『いや、ここだけの話なんですけどね。』
少し真剣な目になって座り直した彼女の次の言葉を待つ。
『私、少し左耳が悪くて。』
…あれ?
確かAちゃんが最初に記事に呼ばれたのって、耳が"良いから"じゃなかったっけ。
あまりに想定外の発言すぎて言葉が出ない。
河村に目をやれば、先程まで面白そうに僕らの会話を聞いていた笑顔が少し曇っていた。
『だから、大学卒業したら何か別の仕事探そうって思ってたんです。なのでもし伊沢さんが本気でそう言って下さってるのなら、もう私にとっては願ったり叶ったりというか…』
と、笑顔を見せるAちゃんに思わず伊沢と目が合う。
これは、チャンスなんじゃないか?
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作者名:きゃる | 作成日時:2021年9月10日 10時