『follow my hand』fkr ページ30
.
クイズノックという会社で、不定期に開催されるそれは。
「コンビニ行くけど、欲しいものある人ー?」
オフィスの作業場に響いた高松さんの声に、数人が反応を返してガタガタと椅子から立ち上がる。
数人程度なら、声をかけた人が買いに行ってくれるのだが、それが5人を超えると。
「今日は8人だな!いよーっし、いっちょやりますかぁ!」
グーッと伸びをしながら、須貝さんがデスクから立ち上がり集まった目の前の8人に目配せをした。
「んじゃ行くぞ?最初はグー!じゃんけん…ポォンッ!!!」
『買い出しじゃんけん』と名付けられたそれは、クイズノックという会社が大きくなるに連れ、人数が多くなるに連れ、声をかけた人に買い出しを頼む人数が5人を越えた場合、じゃんけんをして、負けた1人(10人以上の場合2人)が買い出しに行くという暗黙のルールに沿って行われるようになっていた。
そして。
『ええと…来客用のお茶のペットボトルと、アイスコーヒーのパックと…こうちゃんさんのオレンジジュースと、須貝さんのアップルクリームデニッシュと、あとは…』
手元のメモを見つつカゴの中身を確認し、買い忘れが無いかを素早くチェックする。
それらをクリアしてから、飲み物多数のせいで多少ガタついたカゴを抱え直し、いそいそとレジへ向かった。
見事にじゃんけんで連敗を喫し、敗者となった私が買い出し当番に相成った本日は、秋口だというのにうっすらと汗が滲むような日差しが照りつける残暑日だった。
買い出しじゃんけんに参加した数人からは、同情の声や気遣いにより商品の変更の申し出が上がったけれど、それはもう、そういうルールで成り立っているのだからと潔くオフィスを飛び出して今に至る。
それにしても運が悪かったなと独りごちて、じゃんけんには必勝法があるんだぜ!と豪語していた須貝さんに、今度教えを乞おうかなと思いながら会計を済ませた。
軽快なメロディの電子音を聞きながら自動ドアを出ると、真昼の日差しが目を焼いて、額に手をかざす。
『あっつい…』
今日この日に負けが確定してしまった自分を嘆きながら、帽子を被ってこなかったことや、日焼け止めのクリームを塗ってこなかったことを心の中で悔やみつつトボトボと歩いていると。
「Aちゃん?」
不意に、背後から聞き慣れた声がして、まさかと思いながら勢い良く振り返った。
『ふ、ふくらさん?!』
.
187人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時