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私をこのクイズノックに紹介してくれた早稲田の先輩、の先輩に当たる人が山本さんだった。
そのよしみもあってか、入った当初から今に至るまで、山本さんはこうしてバイトの私なんかにまで気を配ってくれる面倒見の良い優しい先輩で、その上頭も良くて運動も出来て性格も良くてカッコ良いとくれば。
私にとって、まさに男性版の高嶺の花という存在で。
住む世界が違うというか、生まれた星が違うというか。
出会いさえしなければ、成就するはずもないこんな感情を抱くことすらなかった人なのに。
神様は意地悪だなぁ、なんて。
自虐気味に小さくため息をつくと、優しい山本さんがまた顔を覗き込んでくれた。
「あれ?Aちゃんなんか疲れてる?大丈夫?」
だからそんなに優しくしないで下さいと心の中で悲鳴を上げながら、私はまた、平静を装うのに必死になる。
『だ、大丈夫です!昨日ちょっとレポートに手間取っちゃって、寝不足気味で…』
「無理しちゃダメだよ。それから山森さんも、Aちゃんのことあんまり振り回さないであげてよ?」
釘をさす様にそう言った山本さんに対して、山森さんは心外だとでも言いそうな顔を向けている。
しかし、急に何かを思いついたように、ハッと手を打って私に向き直った。
「そうそう!スーパーヒーロー戦記も大事なんだけど、今日呼んだのはちょっと頼みたいことがあって!実は、明後日の撮影で人手がいるらしいんだけど、急遽何人か穴空いちゃったみたいで。高松さんから突然各自頼める人当たってくれって通達があってね…それで、私はAちゃんに声かけたってわけ」
「あー、そういやそんな話してたね。って、振り回さないであげてって言ったとこなのに!Aちゃん寝不足なんだし無理させちゃダメだよ、もう!」
「そりゃ無理にとは言わないし、一応映画の話のついでに聞いておこうと思っただけだから」
「本音そっちかーい!」
まるで漫才のような掛け合いに、若干羨ましいなという思いもありつつ呆然とその様子を見ていると、それでも、クイズノックの撮影に携われるかもしれないという千載一遇のチャンスに、心惹かれている自分がいるのも確かだった。
『私なんかでも、いいんですか?』
「詳しいことは聞いてないけど、とにかく人手がいるって話だから、誰でも大丈夫なんだと思うよ」
『じゃあ…やって、みたいです』
そんなほんの少しの好奇心が、この後大きな後悔と波乱を呼ぶとは、つゆ程も知らずに。
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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時