『follow my hand』nb ページ20
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オフィスの撮影部屋にいた。
いつものソファーに俺だけが座っていて。
誰かが向かいのカメラ横にいて。
俺はその人と会話してるみたいだった。
目の前にいるのに、その人の周りだけ、フィルターがかかったように姿が見えづらい。
話しているはずなのに、声も聞こえない。
随分おかしな状況なのに、気持ちだけは楽しいと感じていて、むしろ高揚しているくらい。
不意にその人が近づいて来て、机越しに両手を差し出された。
それに反応するみたいに、俺も右手を差し出して、そっと、その両手に包まれる。
その人の手は俺よりも小さくて、温かくて、とても心地良い。
姿も見えない、声も聞こえない、なのに、その手の感触とぬくもりだけがやけにリアルで。
心臓がどんどん、早まって行くのを感じる。
不意に、手を引かれて立ち上がって。
撮影部屋を出ようとした時。
その人が俺を振り返って、
目が、覚めた。
「ん…んん…」
カーテンの隙間から薄暗い光が少し漏れていて、予定外の時間に起きてしまったのだとぼんやり思った。
いつもなら、目覚ましをかけた時間の前後に起きるのに。
これも、あの、夢のせいだろうか。
「ゆ、め…」
そういえば、久しぶりに夢を見ていた。
先ほどまでの朧げな記憶が霧散してしまう前に、何故か、思い出さなければならないような気がして。
たぐり寄せるように、記憶を遡って内容を呼び起こす。
あぁそうだ、オフィスで誰かと手を繋いでた…。
何度思い出そうとしても、それが誰なのか、どうしてそうしていたのかは解らなかったけれど。
やけに熱の残っているような右手を、そっと額に乗せた。
「誰、だったんだろな…」
携帯を見てしまえば目が冴えてしまう気がするので止めておくとしても、起床時刻までまだもう少しありそうだ。
今、目を瞑って夢を見れば、またその人に会えるだろうか。
夢の続きが見たいと思うこと自体初めてで、何だか滑稽に感じる。
誰かが解ったとしても、それは夢でしかないのに…。
ふっと自嘲するように笑って、俺はもう一度、意識を手放すことにした。
あの人に会えることを。
夢に託して。
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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時