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「なーんてね。まぁ、それが決まった会議にたまたまいただけなんだけど」


仁王立ちしていた体制を崩しながら、渡辺さんがにこやかにこちらに向かって歩いてくる。


「良かったじゃん。ちゃんと皆が、Aちゃんの仕事っぷり、認めてる証拠だよ」


その穏やかで暖かい言葉を聞いた瞬間。

先ほどまでの不安と虚勢とでないまぜになっていた気持ちの糸が、プツと途切れてしまった。

鼻の奥がツンとして、じわりと視界が歪んでいく。

こんなみっともない姿を見られたくなくて、それでもここから離れることも出来なくて、思わず、持っていたファイルで顔を覆うしか方法が見つからなかった。


「ちょ、え、何で?!ど、どした?!大丈夫?!」


まさか目の前で泣かれるとは思ってもいなかっただろう渡辺さんが、ワタワタと焦っているのが申し訳なくて、情けない気持ちで一杯だったけれど。


『ち、違うんです。AD、嬉しいんです、でも…私に務まるか、わからなくて…でも、やりたくて、やらなきゃいけなくて、でも、やっぱり…不安で…』


心の中に閉じ込めていた言葉が、溢れ出てしまうように止まらなくなった。

どうして、さっき高松さんに言われた時にこうならなかったのかはわからない。

なぜ、渡辺さんにならこうして話せてしまうのかもわからない。

でも。

渡辺さんの姿を見て、声が響いて、心が、安堵してしまった。

それは事実で。

自分の本音を、この人には聞いてほしいと、無意識にそう思ってしまったのかもしれない。

そして。

背中に、そっと、暖かさを感じてハッとする。

それは間違いなく渡辺さんの手のひらで。

優しく、戸惑いがちに、その温もりは背中に広がっていく。


「たまたま、高松がAちゃん呼び出してんの見えてさ、あの顔だったら、もしかして今から伝えるんじゃないかと思って。なんか声かけたくて待ってたんだよ」


背中をさする手が、ゆっくりと頭に重なって。

安心させるように、そっと往復する。


「こんなこと、いつも一緒じゃない俺に言われたって何の足しにもなんないかもしれないけどさ。それでも、俺見てたから。Aちゃんが、すっごい頑張ってんの。だからさ、Aちゃんなら、出来るよ。大丈夫。俺も、支えるから」


また一つ渡辺さんの言葉が胸に響いて、涙腺が決壊する。

この人の言葉はどうしてこんなにも、この胸に響くのだろう。

けれど、その言葉ひとつで。

今の自分を越えて強く在ろうと、心から、そう思えた。


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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時

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