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慌てて乾の乗っている石まで飛んで、よろけた体を、咄嗟に手をつかんで引き止めた。
すんでのところで乾の体が石の上で止まって、お互いに安堵のため息をつく。
『っ大丈夫?』
「あっっっぶなかったぁ…Aいなかったら俺がずぶ濡れだったかも。マジでありがと。助かった」
改めて近距離で覗き込まれた瞳に驚いて、掴んだままだった手を勢いよく離してしまった。
『別に、乾はあれだけど…その、撮影道具預けてて、心配だったし』
なんと可愛げの無い言い草だろうか。
道具のことなんかこれっぽっちも頭になかったのに。
天邪鬼、そんな言葉を自分に投げつけたくなる。
それでも、そうでも言っておかないと、この早まった鼓動を見抜かれてしまいそうでつい虚勢を張ってしまった。
こんな時に、乾が怪我しなくて良かった、と上目遣いで言えていたら、なんて気持ち悪いことを考えてしまう自分にもうんざりする。
そうこうしているうちに、もうそこまで次のスタッフさんが飛び石を越えてきていたのが見えて、慌てて乾を促した。
『さ、もう大丈夫だったら先渡って。ってか下駄危ないんだったら脱いで渡ったら?』
口を開けてぽかんとする乾の口から言葉がこぼれる。
「あ、ほんとだ。盲点だったわ。こうちゃんにも教えてあげれば良かった」
言葉の先の人物を見ると、今だに危なっかしい動きで飛び石を渡っている最中で。
「まぁ、後ちょっとそうだから、いっか」
なんと先輩思い皆無な後輩だろうかと呆れながら、後に続いてまた飛び石を飛ぶ。
するとまた、乾がこちらを見て止まっているのが見えた。
『今度は何?』
「いや、そこの石からこっちまで結構距離あったから、大丈夫かなと思って」
下を見やると、確かに今までで一番と言っていいほど間隔が空いている。
『ほんとだ。気をつけて渡るから、先行ってて』
そう言いつつも少し不安になっていると、乾が、左手をこちらに差し出してくれていた。
「引っ張るから、ほら」
『別に大丈夫だから』
「さっき助けてくれたじゃん。そのお礼、今させてよ。Aが落ちても大変だし」
そう言って、また、あの優しい目がこちらを見る。
まさか知られているのではないかと思うほど、その目に弱い私は、戸惑いながらもまた渋々と素直に従ってしまう。
右手を伸ばしてその手に触れると、また鼓動が早くなる。
悟られないうちに手早く飛んでしまおうと、力を込めて石を蹴った、その時。
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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時