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『いや、そんなに重くないから大丈夫。私の仕事だし、返して』
「いいよ、俺なんも持ってないし」
『演者さんにそんなことさせられないよ』
「お気遣い痛み入りマス」
『棒読みですが』
「まぁ、中洲までじゃん。気にするような距離じゃないって」
そう言って、優しい目をするのをやめてほしい。
心臓がキュッとなって、勘違いしそうになる。
まぁ、優しい乾のことだから誰にでもそうなんだろうけど…。
『じゃあ、中洲まで…お願いします』
「ん、いいよ」
こうやって折れてしまう私が悪いのか、気遣いが出来る乾が優しすぎるのか。
少し悶々としながら、ようやく飛び石のたもとまで到着した。
中洲に向かう飛び石は、数カ所だけ亀石になっていて、その上を子どもたちが楽しそうに乗って遊んでいる。
「こうちゃん先行って偵察してよ」
「えーなんで俺が!んなこと言うならお前先行けよ!」
「いやだって先陣切っていく方がカッコイイから、先輩に譲ろうかと」
「まぁたお前はこういう時だけ後輩ヅラすんじゃん!もー!!」
口ではやいやいと言いながら、それでも渋々といった様子で浴衣の裾をまくり慣れない下駄に苦戦しつつも渡辺さんは先を渡ってくれている。
それに続いて、ニカニカと笑う乾が続く。
そんなやりとりを微笑ましく思いながら、さて自分も渡らなければと目の前の飛び石を見やった。
石と石の間は約80センチくらいだろうか。
飛べなくはないけれど、勢いよく飛ぶのには少し戸惑うような、そんな絶妙な距離感だ。
運動はさほど得意ではないものの、スカートを履いて来たわけでもないのでそれなりには渡れるだろうと高を括る。
最初はその間隔も狭く、歩いて跨げていた幅が中洲に向かうほど徐々に広くなっていく。
「うぉお!ちょ、ここ結構広いって!やっば!俺落ちるとこだった!!あっぶな!!シャレになんないって!!」
数個先の飛び石を渡っている渡辺さんが、突然大声を上げて、スタッフ一同が驚いて先を見た。
下駄を履き直している所から察するに、そのひとつ前の石の間隔が思ったより広かったのだろうう、あの辺りが危ないと見える。
「こうちゃんオープニングの前にずぶ濡れとかやめてよ!っと…!?」
偵察に行かせたのは乾なのに悪いやつだな、と思っていたのもつかの間、同じ箇所で乾がよろけて目を見開いた。
『乾っ!!』
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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時