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不思議そうに手に持った浴衣を見る彼に告げると目を見開く。“もう手元にないんだけど、懐かしくて”と笑うと、食い気味に“これにしようよ”と言った。
『…え？』
「Aのお母さんが似合ってたんなら、Aも似合うよ。」
まだ顔も合わせたことないのに、そう言って笑う彼がなんだかとても可愛く見えて私もはにかむ。
…結婚するって言いに行くなら拓司とがいいなぁ、なんて浮かんできて赤くなった顔を隠した。
そんな私を見てふっと笑うと、半ば強引に浴衣を決め 帯の色やら簪までウキウキと選んでくれる。
彼の背中を見詰めてたら、始まってもいない夏祭りのボルテージがぐんと上がった……そんな気がした。
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屋台が所狭しと並んでいるところを拓司が選んでくれた浴衣姿で通り過ぎた。
夏祭りらしい熱気と美味しそうな香りが充満している中、一人で浴衣を着ておつかいなんて…とちょっと寂しくはなったけど、家に愛しい人が待っているなら話は別だ。
誘惑が多すぎてあの日メモしたものの倍以上買いこんでしまったのは内緒にしておこう。大通りから抜け出して、歩きなれない下駄をつっかけて早足で歩いた。
ピンポーンという音が鳴り響いて“はーい”と声が聞こえる。ドアを押して開ける彼の姿を想像しては頬が緩むのを感じた。
「おかえり」
『ただい……ま…、』
「何その反応(笑)」
ドアを開けてくれた拓司は青を基調とした私の浴衣に合わせたと思われる紺色の浴衣姿で…息を呑んだ。
自分の浴衣を選んでるような素振りを見せなかった、っていうのも勿論あるけど。――何より似合ってるから。
『だって、浴衣…！』
「くく そんな反応してくれるとは。似合ってる？」
『すごく！』
「Aのが似合ってる。」
そう呟くと両手いっぱいに抱えていた袋を片方掴まれて、空いた手を握って引っ張られた。
『わっ！？』
「ねえ聞き逃してやれないけど、」
引っ張られて傾いた体は、鍛えられた彼にぎゅうと抱き締められて。後ろでパタンとドアの閉まる音がした。
ばくばくと煩くなる心臓を抑えて彼を見上げると、いつの間にやら手に持っていた荷物は廊下に置かれててそのまま視線が交わる。
「さっきの、俺と結婚するってこと？」
ぎゅうと心臓が締め付けられる。…やっぱり、すぐバレちゃうね。
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作者名：遊馬
| 作成日時：2020年6月13日 21時
