hold hands #1 izw ページ6
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「――すまん。」
よく聞くこの響きは、優しすぎる彼を表す3文字だ。
例えば、散々揶揄った後に笑いながら付け加えたり。
イタズラをした時に眉を下げて口にしたり。
非を認めて頭を深く下げて謝罪したり。
…それから。
拓司のせいじゃないのにぐっと堪えて言ったり、とか。
「祭り……一緒には回れない」
『……そっかぁ。まあ駄目元だったしね!仕方ないよ』
私が笑って見せても彼の眉間の皺は深くなる一方で、その瞳には不安が滲んでいた。
「すまん…。」
もう一度そう口にすると視線を落とす。
私はたいして気にしていないのに…ほーんと、意外と気にしちゃうとこ可愛いよね。自分のせいで、とか思ってるんだろうな。
『も〜〜何を今更。そんな顔して〜』
「…A」
『別に拓司とお祭りに行きたいから付き合ってるんじゃないよ?』
「それは、知ってっけど…」
唇を尖らせながら“Aが誘ってくれたし…行きたかったし…”とぶつぶつ呟く彼に向って、活を入れるつもりでフルネームを呼んでみる。
『伊沢拓司!』
「えっ?」
『はい!でしょ。もう一回』
“伊沢拓司!”と呼ぶと一瞬首を傾げて、“はい!”と返事をした。
『伊沢拓司くんには“場所取り”を命じる!夜の7時までに、この部屋を綺麗に片付けること!』
「はい!……って、え?」
『雰囲気だけでも楽しもうよ。私買い出し行ってくるから』
「……A、」
『何食べたい?りんごあめ?』
お祭りならではの賑やかさ、お神輿や山車、祭囃子、……屋台が並ぶ道なんかを一緒に歩けなくてもいい。
そう口には出さないけど頭の回転の速い彼なら汲み取ってくれるはずだ。
私焼きそば食べたい!とおどけて見せると、何か言いたそうに口を開いて…そのままくしゃりと笑った。
「俺たこ焼き。じゃがバター。あと焼き鳥とー…」
『ちょ、ちょっと待ってメモメモ』
「フハハ 一度しか言わねえぞ」
『鬼〜悪魔〜!』
「フハハハハ!!」
悪魔みたいな声で笑う彼はちょっと無理をしてるような感じだったけど、すぐにいつものテンションに戻って大笑い。
拓司と一緒に居れるなら特別なことは何も望んじゃいないって、伝わってるといいな。
「A」
『ん?』
「サンキュ」
『ふふ、ううん』
やっぱり賢いね。
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作者名:遊馬 | 作成日時:2020年6月13日 21時