褪色する春＿skab

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「ほら、辛そうな顔してる。」
「でも、大丈夫です。」
「その大丈夫が信用ならないのはもうバレてんの。
ほら、寝てても寝てなくても良いけど、ご飯作るからゆっくりしてて。
一緒に食べよ。」


そう言ってキッチンスペースに向かう佐久間さんをまたぽけっと目で追う。
だってさっきから佐久間さんの優しさが供給過多で。
俺これから何か悪いことがその分倍になって降りかかるんじゃないかって心配にすらなる。
でも途中でこのまま座ってちゃ駄目だと気付き、佐久間さんの後ろを着いて行った。


「あの、手伝います。」
「ええ、良いって。
うどん煮るだけだし。」
「でも」


うどんなんて、多分二日酔いの俺に合わせてくれてるんだよね。
それで何もしない訳にはいかない。


「じゃあ、この箸テーブルに持ってって。」


なんだか小さい子のお手伝いみたいな任され事だ。
でもとりあえず言われた通り持って行く。


「ほんとにすぐできるから弟くんはそのまま座ってて。
つうか弟くんって呼び方もなんか変だね。
なんて呼んだら良い？」
「阿部ちゃんとか、家族からは亮平ってそのまま名前で呼ばれます。」
「へえ、阿部ちゃんって可愛いね。
俺もそれにしよ。」


呼び名のことだとしても可愛いなんて佐久間さんに言われる日が来ると思ってなかったから、なんだか照れくさい。
緩みそうな頬をどうにか抑えようと、唇を内側に入れてきゅうっと力を込めた。



「はい、どうぞ。」


うどんが運ばれてきた。
ふわりと出汁の良い匂いがする。


「ありがとうございます。」
「食べて食べて。
あ、テレビつけて良い？」
「はい。」
「俺アニメすごい好きなんだよねー。」


覚えてます、なんて言ったら間違いなく引かれそうだ。
まあ言われずとも部屋の至る所にアニメの女の子達が飾られているから誰だって察するとは思うけど。

そんなことを考えながらも一番気になるのは、なんとも自然に佐久間さんが俺の隣に座ったことで。
多分テレビが見やすい位置だからってことなんだと思うけど。
とは言えローテーブルに横並びで座るこの距離感は、なんとも心臓に悪い。
あれ、でも。
俺の初恋は、あの日終わったはずなのに。
なんだろう、このざわめきは。

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