褪色する春＿skab

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「お待たせ。」


改札に向かった女の子の方ではなく、すぐ俺の方を向き直ってくれたのが嬉しいとか。
俺、ちっさ。


「ううん、来てくれてありがとう。」
「どういたしまして。
今読んでる漫画でお迎えってシチュエーションがあってさ。
やってみたくなったんだよね。」
「へえ。」


友達同士でお迎え？
どんな話なんだろ。
そんなことを思いながら佐久間の隣を歩く。


「それにほら。
阿部ちゃん桜好きみたいだったから。
ついでにこうして夜桜も一緒に見れるし。」
「ふふ、そうだね。
そう言われると確かに得した気分かも。」
「俺も俺も。
阿部ちゃんと桜って組み合わせ好きだから見れて良かった。」
「ええ、俺と桜？」
「うん、だって阿部ちゃんなんか桜っぽいから。」


俺が？
桜の要素なんてどこにも無いと思うけど。
っていうか花に例えられるってめちゃくちゃ恥ずかしい。


「どういう理論…？」
「え、ああ、今のは胸きゅんさせるセリフの練習？
ほら、漫画に載ってたんだよ、そういうセリフが。」


それも漫画の影響なんだ。
しかも練習…。
それって、誰か本番として言いたい相手がいるってことだよね。
さっきの痛みがまたぶり返す。
それは、桜色とは程遠い痛みだった。
佐久間にとっての本番の相手は、それこそ本当に桜みたいな人なんだろうに。
俺は佐久間の近くにいたらどんどん汚れてそこからは遠ざかっていくなんて、お粗末過ぎる。


「もしかしてさっきの子に言いたかったとか？」


まだ彼女では無さそうだったし。
でも、思えば俺は佐久間の大学の様子とか何も分からない。
だから俺が知らないだけで、他にも周りに女の子は沢山いるのかもしれない。


「えっ、違う違う。
あれはただのバイト仲間。
全然そういうんじゃないから。」
「そうなんだ。」


ひとまず良かったと胸をなで下ろす。


「今度その漫画読ませてよ。」


それを読んだら、少しは佐久間の気持ちが分かるのかな。
誰かへの佐久間の恋心なんて知っても、また傷つくだけなのかもしれないけど。
…はあ、ちょっと前まで佐久間のことは何でも知りたいと思ってたはずなのにな。
やっぱり最近の俺はなんかゴチャゴチャで、自分でも思考が整理しきれてない。


「俺が読み終わったらね。」
「うん、待ってる。」


けど約束がまた一つ増えて、会う理由も増えたから良かったのかな。
なんて、どうにか自分を納得させようとして、このどうしようもない気持ちを庇っている。

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