褪色する春＿skab

３３ ページ38

佐久間はどんな顔して待ってくれてる？
俺を人の波から探そうとしてくれてる？
いや、スマホしてて下向いてるかも。
でも俺を見つけたらまたいつもみたいに笑ってくれないかな。
…でも、遅いよって言われちゃうことも有り得るか。
だってなんだかんだ十二時前だし。
でも…、あー、駄目だ。
佐久間のことは考え出したらきりがなくて永遠に迷宮入りしそう。
でもその答えをもつ人の姿が、もうすぐ見えるはず。

どこにいるかな。
どうやって待ってるかな。
…あ、俺また迷宮入りした。
もう考えたって仕方ないのに、同じことを勝手に何度も考えてる。
でもどうしたって気になるんだよ。
だって、好きだから。



「…ぁ、」


改札を抜けた少し先、佐久間がいた。
でもその佐久間はスマホも触ってないし、それから俺を探してるなんてもっと無くて。
予想なんかどれも当てはまっていなかった。

女の子と、話してる。
思わず足がピタリと止まった。
今日佐久間はやること無かったみたいだし、もしかしてその子と今まで一緒に過ごしてた？
俺、もしかして見送りのついで？
それともたまたま会っただけなの？

彼女さん、だったりして。
…分からない。
けど、浮かぶのは嫌な想像ばっかりで。

今話しかけて良いのかな。
話し終わるの、ちょっと待ってた方が良いかな。


…あ。
佐久間が、目を細めてすごく楽しそうに笑った。
勿論、女の子に向けて。
あんなにその笑顔が見たいと思っていたのに、遠くから見る横顔じゃ、体の奥のどこかが切り刻まれるみたいに痛んだ。

佐久間のこと、好きなはずなのに。
それは淡くて儚い、桜色みたいな気持ちのはずなのに。
最近の俺は、どうしてこんなに佐久間のことで痛くて辛くてどうしようもなくなるんだろう。
気のせいだと振り払ってみたりもしたけど、でも確実に存在している。
これは、何。


「あ、阿部ちゃん！」
「佐久間…。」


結局佐久間がこちらに気付いてくれただけで、ドキンと胸が高鳴る。


「おかえり。」


ニコニコって言葉がぴったりな満面の笑顔を向けられたら、なんだか無性に泣きたいような気分になって、けど懲りずにずくりと何かが甘く疼く。


「ただいま。」


そうやって返して、良かったのかな。


「じゃあわたしも帰ります。」
「ん、また火曜日ね。」
「はい、お疲れ様です。」


そんなやりとりをして、女の子は俺にも会釈をすると改札の方へ去って行った。
挨拶の感じからするに彼女では、無い？

３４→←３２

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す