褪色する春＿skab

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「えー、だって阿部ちゃん見てたら俺もしたくなった。」
「じゃあ佐久間に任せる。」


だって何度も何度も狭いボウルの中で指が触れて気が気じゃない。
そんなに佐久間に触ったら俺死んじゃうかもしれない。


「え、一緒にやんのが楽しいんじゃん。」


楽しいけど心臓が保たないんだって。


「これ阿部ちゃんとの記念すべき初めての協同作業だから。」


…結婚式のケーキカットみたいに言わないでよ。
佐久間はいつか、女の子と本当のそれをするんでしょ。
そんなことが頭に浮かんで、体の奥深いところがズキリと痛んだ。
何だろう、これ。
好きな人と運良く友達になれて、こんなに近くにいられて、それで幸せなのに。
付き合えないのは最初から分かってたことなんだから、傷つくみたいなのは変だ。
気のせいか何か。
うん、消し去らなきゃこんなの。
しっしっと、その感情を追い出す。


「こんなもんで良いかな。」
「そうだね。
じゃ、相手の分作ろ。
俺阿部ちゃんのために作る。」
「ええ、プレッシャー。
綺麗に作れるかな。」


だって俺のは佐久間の分になるんでしょ？
綺麗なの食べて欲しい。
ドキドキしながらタネの四分の一の量を手に取る。
レシピサイトで読んだ情報によれば空気を抜くイメージで、投げる感じって書いてあったはず。


「待って、佐久間大きすぎ。」


二分の一の量を一気に手に取ってて、めちゃくちゃ作業しにくそう。


「阿部ちゃんに特大ハンバーグを作ろうかと思ったんだけど。」
「そういうの良いから。
生焼けのなんか食べたくないよ。」


そんな大きいの絶対中が焼けないか外が焦げるかだよ。


「ええー、じゃあここは正統派でいくかぁ。」


ちょっと残念そうに四分の一をボウルに一旦返してた。
これで安心。
俺の方もいい感じになってきたから形を整える。
料理というよりは比較的得意な図工をイメージしてやってみてる。
楕円形で、最後に真ん中を窪ませて、と。


「一個目できた！」
「うわ、上手い。」
「やった。」


佐久間に褒められた。
好きな人と一緒だと、ほとんど未経験状態だった料理もただただ楽しい。
佐久間の言葉も笑顔も、全部魔法みたいだ。


「俺もできたー！」
「あ、綺麗。
これ食べれるんだ。」
「勿論阿部ちゃん用。
愛情めっちゃ込めたから。」
「ふははっ、嬉しいな。」


それが例え冗談でも、すごく。

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