褪色する春＿skab

一度目の春 １ ページ2

俺が初めて恋をしたのは、大学二年生になった四月のことだった。


「青い空、満開の桜。
やっぱり今日にして正解だった！」
「なんでふっかの手柄みたいになってんだよ。」


その日は高校で毎日のように笑い合ったメンバーと数ヶ月ぶりに集まってお花見をしていた。
レジャーシートの上には座った俺らと、沢山の飲み物やご飯。
相変わらずのふっかと照の掛け合いにも笑みが零れる。
俺の向かいに座っている翔太は呆れ顔で


「そうだよ。
たまたま全員この日が都合良かったってだけじゃん。」


なんて照に加勢してたけど、


「うるせえよ。」


と返すふっか、っていうそこまでの一連のやりとりにも懐かしさを感じる。
大学も大学で楽しいけど、このメンバーで毎日一緒にいた頃も楽しかったな。



「あれ、亮平。」


頭上から名前を呼ばれて顔を上げる。
皆も一斉にそっちを見た。


「姉ちゃん。」


俺の名前を呼んだのは久しぶりでもなんでもない、生活を共にしている家族の一人だった。
大学四年生の姉。
だった、んだけど。
隣に、男の人がいる。


「お花見とは聞いてたけどまさか亮平達もここだったなんてね。」
「姉ちゃんこそ、桜が見えるカフェとか言ってなかった？」
「この先にあるのよ。」
「莉子。」


俺達の会話の途中で、男の人が控えめに姉の名前を呼んだ。


「ああ、ごめんごめん。
紹介するね。
弟の亮平。
大学二年生だから、大介の一つ下かな。」


姉に年下の彼氏ができたという情報は少し前からなんとなく知っていたけど、まさかこうして会うことになるとは。
とりあえず紹介されたから俺も立ち上がって


「阿部亮平です。
姉がお世話になってます。」


と挨拶をした。
こんな挨拶をするのは初めてで少し緊張する。
そんな俺に、その人はふわりと微笑んだ。


「初めまして。
莉子さんとお付き合いさせてもらってます、佐久間大介です。」


大きな丸い目が柔らかく細まった。
後ろに見える桜と同じくらい淡く綺麗な色をした瞼が印象的だなと思った。
それから今日の青い空にも負けない程澄んだ、きらきらとした笑顔に目を奪われた。

姉の、彼氏。
そんな肩書きをもった人に一目惚れをした、なんて。
あまりにもどうしようも無い話だけど。
でもそれが確かに、俺の人生一度目の恋だった。

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