零くん、あのね！ La fin (降谷零/安室透)

♪ ページ40

「ほ、ほらっ、透っ、」

零君が抱き方を変えたり、懸命にあやすけど
透ちゃんの泣き声がそれを掻き消して行く。

「パパ頑張って！」

流石の元トリプルフェイスも赤ちゃんの前だと
歯が立たないらしい。


「ふぇぇぇぇー ！！」

「ま、参った..降参だ。」



どこか悔しそうな零君は、ゆっくり私に透ちゃん
を託して来る。

小さな我が子は、まだ胸元でふがふが..
ぐずっていた。
透ちゃんの好きな体勢に整えながら
ゆっくりと近くのベンチに腰掛ける。



「零君、後でスーパーに行きたいの。そ、その...
エコバック忘れちゃって..」

「分かった！すぐ戻るから、そのまま待ってろ。」



零君は勢いよく飛び出し、すぐ横の自宅マンションへと姿を消した。



「ふっ、ふぇぇ..」

「よしよし..」


それにしても、泣く泣く。
今日は一体どうしちゃったの？
さっき、ミルクもオムツも済ませたのに..


すぐ側の木々の葉が揺れる音と、透ちゃんの
衰える事の無い元気な泣き声だけがこだまする。




カツッ..

カツッ――




次第に近づく足音。
明らかに、零君の歩き方では無い。




「まぁ！可愛いベイビー！」

長いツバが特徴的な真っ白な帽子に、美しいプラチナブロンドの髪を揺らす女性が立っていた。


「あ、貴方は..ベル..モットさん？」

彼女はセクシーな唇に自身の人差し指を当て

「まだ..捕まる訳にはいかないの。彼には内緒ね？」

彼とは、零君の事だろうか...

「隣...いいかしら？」



ゆっくりと腰を下ろす彼女の所作は、いちいち
色気と言う物を感じる。 そのせいだろうか？
あれだけ泣きじゃくっていた透ちゃんが
やけに大人しい。


「旦那様にそっくりだこと。バーボンに似てイケメン君になりそうね。」


バーボンは零君。
ベルモットさんは、零君とお仕事を一緒にしていた人。そして...私があの時、助けたおじさん。

後で零君が教えてくれた事――



「あ、あの..良かったら、この子を抱っこ..して頂けませんか？」

「えっ..いいの？？私なんかが...」

「この子が喜びます！美人には目がないようです。」



クスリと笑って見せた。
透ちゃんも笑顔だ。


「まぁ！..貴方、プレイボーイにならないかしらね。」

透ちゃんは美人さんを前に、きゃっきゃっ
と、はしゃぎご機嫌だった。

「なんて...なんて...清らかなの。純粋無垢で穢れを知らない―」

ベルモットさんの透ちゃんを見つめる目は、
どこか優しげで悪い人だなんて思えなかった。

「ベルモットさん..」

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