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どんな部屋なんだろう、と
ワクワクしながらリビングに入って、
それから俺は絶句した。
何度も何度も夢で見たリビング、そのものだったから。
「てきとーに座って〜。ひかるビールでい?
日本酒もあるけど………って、どした?」
グラスを両手に、不思議そうに突っ立っている。
怖くはないんだけど、どこまでも怖いような。
ぞわりとして、でも心の底は凪いでいるような。
デジャヴ、夢で見た、さっき出て行ったはずの夢の中。
心臓が震えている。
「………頭ん中に、」
「ん?」
「俺の頭ん中に昔から、おっきな月が、
自分めがけて突っ込んでくるイメージがあるんだ…。
例えとかじゃなくて、ほんとに見たんだ…」
「うん、ひかる昔っからよく言ってるよね」
穏やかな声と、テーブルにグラスを置く2つの音。
「…最近それを、夢でよく見るんだ」
「え…」
声に焦りを感じて、いのちゃんを見る。
そこにはいつもの
飄々としたポーカーフェイスはなくて、
あのリビングで最後に見た、
焦る顔したいのちゃんが居た。
「え…?」
なんでそんな顔するのか分からなくて、
俺また夢に戻った?って訳分かんなくなり始めてたら、
いのちゃんは俺の側をすたすたと通りすぎてって、
ぎこちなくソファに座り…、頭を抱えた。
「え…?いのちゃん…?」
「ひかるごめん…」
「え?」
小さく落ちた声と、頼りない薄い背中。
触れてあげたい。
優しくしたい、それだけだった。
「ちょっと前に…俺海外行ってただろ?
そん時たまたま会った小さい女の子が…
自分は"ゆめのつかい"だ、って言うんだ」
それだけで、十分だと思ってここに来た。
「夢で逢えたら何がしたい?って訊くから…。
いやそん時、俺だってそんなの信じてなかったよ?
でも…でもそうやって訊くからさ。
日本人なんてほとんど見ないような異国の地で、
相手子供で、そばに誰もいなかったし…」
「…なんて答えたの?」
薄い膜が剥がれて、
剥き出しのいのちゃんに、やっと会える気がした。
そしてそのいのちゃんは、
優しくするだけじゃ、きっと足りない。
「………ゆっくりして、
何もせずにゆっくりしてさ、それで…」
のんきにひかるに愛されたい。
fin.
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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時