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頭を撫でたくて、手を伸ばす。

指先が触れるか触れないかのとこで
パチリ、と目を開いて、


「だからひかるも最後の日は、俺と居るんだよ〜」


はい決まり〜、とケラケラ笑って、
あと3か月で世界が終わるってのにのんきなもんだ。


「俺に選択肢無いの?」

「無いよお」


のそのそ起き上がって、また俺に抱き着いてくる。
のんきで、ちょっぴりわがままで、
何も怖くないみたいな顔で穏やかに笑っていて。


現実のいのちゃんも、
こんなふうに笑えてるんだろうか。


楽屋でも、控え室でも、もちろんカメラの前でも、
いのちゃんはどこか薄い膜で覆われてるような感じで、
俺の前ではその中身を絶対に見せてくれない。


こんなふうに抱き締められなくてもいいから、
たまには弱音を吐いたり甘えたりして、
そっとその中身を取り出して見せて欲しい。

俺が頼りなくてそれができないって言うなら、
こっちからそこに触れてあげたい。


好きだなんて言わないから、優しくしたい。




行かなくちゃ。




また寝転がって、
ソファから毛布を引きずり下ろしている
気ままないのちゃんに微笑みながら、
そっと立ち上がる。




行かなくちゃ。
夢から醒めなくちゃ。

毎日毎日仕事に忙殺されてる現実のいのちゃんに、
ひとかけらずつでいいからそっと優しさをあげたい。




気配を感じたのか、パッとこっちを振り向く。


「どこ行くの?ひかる」

「ん?」


さっきまであんなにくつろいでいたのに、
立ち上がった俺を見た途端、急に焦った声を出す。


「あ、あ、だめだよ。どこ行くの」


子供みたいに、だめ、だめ、と繰り返している。


「待って、ひかる、待って、あ…」


泣いちゃう、と思って手を伸ばそうと屈んだら、
ぐらりと目眩がして、



その後はもう覚えていない。







「んぅ…」


いつも見る夢。また見たな。


車窓には、見慣れない光がキラキラと瞬く。
これから現実のいのちゃんちに行くから、
夢との温度差に笑ってしまいそうだ。


「あと10分くらいで着きます」

「あ、はい、分かりました」


マネージャーに返事をしながら、
もうすぐ着くよ、とLINEを入れる。

すぐに既読になって、
やべえうたた寝してた、と返ってきた。


今のいのちゃんちに行くのは初めてだ。

忙しかったのが落ち着いて、
たまには飲もうとなったのが数日前。

最近のいのちゃんは疲れてそうだから、
しっぽり飲めるとこが良いね、って話してたら、
結局いのちゃんちになった。


 

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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時

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