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「こ…!これだよ!!
 これだよいのちゃん!!!」


ああなんてことだ、夢とばかり思っていたものが、
現実に存在するなんて!!!

目を丸くして興奮する俺に、
なんだよ今更ぁ〜、といのちゃんはのんきな声を出す。




「もう1年くらいこうじゃん」

「え、あ…」




1年。
言われてみればそんな気もする。

去年の夏に、突然月の軌道が変わったと
NASAが緊急宣言を発表して、
世界中が大混乱に陥った。

その時はものすごい勢いで
地球に近づいてくるように見えたけど、
というか今も見えてるけど、
実際そこには途方もない距離があって、
月が地球に衝突するのはあと1年と3か月かかる。


そう人々が知って、大騒ぎして、
喚いて嘆いて暴動が起きて、絶望して…、

そして、受け入れた。
いつだって、どうしようもないことはあるのだと。


ちょうど1年前の今頃だった。




「あと3か月かあ…。
 ひかるは決めた?最後の日に何するか」

「最後の日…。
 そうか、最後の日。そうだったね。最後の日…」

「もー。ぼーっとしてたらあっという間に来ちゃうよ」


いのちゃんは白い指で俺の頬を撫でてから、
するりと抜け出しキッチンに向かった。


「いのちゃんは何するの?」

「んー?おれぇ?俺はねえ…」


ぺたぺたとキッチンから戻った
いのちゃんの手には注射器。


「え?いのちゃん?え…?」

「ほえ?」


可愛い顔で首を傾げながら、
慣れた手つきで自分の腕に針を当てがう。


「待っ…何してんの?!」


慌てて駆け寄ろうとしたら、
バランスを崩して立てなかった。

その一瞬で白い綺麗な腕に飲み込まれていく針の先。


「…っ!」

「ねえ、ひかる大丈夫?どーしたの今日」

「え…」


注射器の中身が全部入っていく。
どうしたのってそんな、こっちのセリフで…。



あ、違う、ごはんだ。



あれはごはんで、月の軌道が変わって
作物が育たなくなったから、それで俺たちずっと
注射器で栄養をとっていて…。

なんで月の軌道と、作物が育たないのが関係するのか
さっぱり分からなくて、
いのちゃんに何回も説明してもらったのに。

俺また忘れちゃってたのか。

何度も説明してくれるけどその度よく分からなくて、
そんな俺をケラケラ笑いながら、
でもいつもめんどくさがらずちゃんと説明してくれて、
そんなとこも大好きだなって、



『ひかるはほんと覚えないね』


『いのちゃんいつもありがと。大好きだよ』



 

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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時

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