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「ごめん、俺今日行かない。
でもやぶは行ってきて?」
「え…。あ、俺も行かない」
「ダメだよ、
いのちゃん今日のオコメ万博
超楽しみにしてたんだから」
「山田がいるだろ」
「…」
もう一度瞬きをしたら、
ひかるは12時の魔法が解けたように
すっかり部屋着になってしまっていた。
対して俺は童話のようには靴が脱げず、
もたもたする間にメイクを落とした
いつも通りのひかるが、まだ玄関で
スカートを履いたままの俺を見下ろしている。
このキテレツな状況に耐えられなくなって、
バタバタと部屋に駆け込んで服を着替えて顔を洗った。
「これでも可愛い?」
ベッドに座ったひかるが不機嫌そうにこちらを睨む。
「…」
咄嗟に答えられなかったのは可愛くないからじゃなく、
何と言ったら魔法が解けて、
いつものひかるに戻ってくれるのか考えていたからだ。
「もういい。ごめん、忘れて」
ふい、と逸らされる目。
「待ってひかる、」
「ラーメンでも食いに行く?」
ニマ、と笑った顔は可愛かったのに、
悲しくなったのは、
それが作り笑顔だと気付いてしまったから。
「…おう、」
それでも可愛いと言ってやれず作り笑顔を返したのは、
なぜひかるが作り笑顔で笑う必要があったのか、
それが全く分からなかったから。
例えばご機嫌ナナメの頬っぺたのまま、
なんで可愛くなりたいかとか
どう可愛くなりたいかとかを
ポカスカ俺を殴りながら呪文のように唱えてくれたら、
俺もそれこそ呪文のように、
このよく喋る口からあらゆる言葉をひっぱり出して
どんなひかるでも十分可愛いって伝えられたのに。
ラーメン屋に向かう道すがら。
あたりは夕焼けに染まり、電信柱の影は伸びていた。
震えたスマホに目を落とすと、
伊野尾から楽しそうな写真が送られてきている。
ひかるが左手にぎゅっと握るスマホも
震えたはずなのに、
真っ直ぐ前を見て歩く後ろ姿。
手を取りたかったけど、取れなかった。
何だかそんな姿も愛おしいと思ったから。
煌びやかな馬車も良いんだけれど、
俺はかぼちゃの馬車も愛している。
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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時