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こりゃ山田も手を焼くわな、と
同情しながらも、
寄り添うふたりの姿は絵になり過ぎていて。


竹下通りから1本入ったあのいつものカフェの片隅で、
人知れずキスをしているふたりの姿が、
何となく浮かんでパチンと弾けた。







「いたぁ…」


小さく玄関に落ちる声に振り向いてみれば、
細く伸びるうなじ。

いつもひかるにメイクしてもらってるから、
一旦ひかるんちに集合するのが
ここんとこのお決まりになっている。

うなじから目線を落とすと、
赤く靴擦れしたかかとが目に入った。


大講義室で指先から流れていた血を思い出す。


ひかるのお気に入りの赤い口紅は綺麗だけど、
ひかるが痛いのは嫌だ。


「絆創膏取ってくる、どこにある?」

「遅れちゃうよ、いい」


俺のパーカーの裾をギュッと掴んだ指を見つめる。

ゆっくりとその指を外しながら、
もう訊かずにはいられなかった。


「………なんでこんなことしてんの」


ひかるの指先はいつも冷たい。
おまけに今は震えている。

はっきりとは訊かないでいた、
ひかるがこんなことをする理由。

訊かずに済むなら訊かないで良い、と
今の今まで思っていた。
でもひかるが"痛い"なら話は別だ。

例えひかるはそれで良いと言っても。

俺は、ひかるが痛いのは嫌なのだ。



「何もしなくても可愛いのに」



本心だ。それ以上でもそれ以下でもない。
オンナノコになるひかるは可愛いが、
何もしなくてもめちゃくちゃ可愛い。
俺にとっては、どっちでも変わらず同じくらい可愛い。


「何も、しなくても…?」


小さく頼りない声に顔をあげる。

反してひかるは俯いてしまって
その表情は分かりづらい。


「あ、いや、可愛いんだよ、このひかるも可愛い。
 でも、大学で会うひかるも同じくらい可愛い。
 あ、でも、それは俺にとってはって話だから、
 ひかるがやってることに対して
 どうこう言うつもりは…」


言い訳のように言葉を並べていると、
パッと顔を上げたひかるが笑ってて安心した。
ひかるの好きなことを
否定するつもりは全くなかったから。



「やめた」

「え?」

「ダメだ。もうダメだ。何やってもダメだ」

「…え?」


安心したと思いきや一転、
俺は何かのスイッチを押してしまったらしい。
案外強情なひかるの、良くないスイッチを。

唖然とする俺を玄関に残して、
スタスタ部屋に戻る後ろ姿。

乱暴にカチューシャを外して、
いつも丁寧にモノを扱うから
ざらりとした違和感が喉につかえる。

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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時

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