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たかがティッシュ1枚だ。
後で謝れば許してくれるだろう。
それに男のカバンだし。
何の文句があるってんだ。


「あったあった、
 借りるぞー返せねーけど………え?」


ティッシュで指を押さえながら、
反対側の手を底まで突っ込む。


たかがティッシュとたかを括っていたら、
どうやら俺はとんでもない大物を
釣り上げてしまったらしい。


キラリ、大講義室の蛍光灯に、
ティッシュに付いた血と
同じくらい赤い口紅のケースが光る。







「いやーそれにしても、やぶもだったとは」


ひかるが嬉しそうにくすくす笑う。
剥き出しの肩が寒そうだ。
けど磁器のようにつるつると、
触ると気持ちが良さそう。


「ここ入ってすぐの店が、いつもの溜まり場なんだ。
 ほらあの店。あ!いたいた」



あの後すぐ戻ってきたひかるが、
大講義室の椅子で口紅を手に固まる俺に固まり、
青ざめ、それを見た瞬間
咄嗟に口をついて出てきた言葉は
『お、俺もだよ…!』だった。

何が俺もなのかは俺も分からなかったけど、
みるみるうちに青くなっていくひかるに、
とにかく俺は敵じゃない、ってことを
伝えたかったんだ。



「紹介するね、やまだといのちゃん。
 ふたりもね、俺らと一緒なんだよ。
 週末こうしてオンナノコになるのが趣味なんだ」

「初めまして、薮ちゃん?」


青っぽいグレーの髪の美少女が、
俺を見上げてぷるぷるの唇で笑っている。

え、コイツほんとに男…?


「ん?」


小首をかしげ、上目遣いでニコニコキラキラ…。
街中ですれ違っても絶対気付かねー…。

そしてその奥にもうひとりの美少女。
でかいぬいぐるみみたいなバッグを胸に抱いて
首をコテンとかしげ、同じようにニッコリ笑った。


「は、じ、め、ま、し、て。やぶ」








「アハハハハハハ!ヘッヘッヘッエッ」

「………」


ふわふわのマッシュルームヘアを揺らしながら、
腹を抱えて大爆笑するこの男。

空きコマをどこで潰そうかと構内を歩いていたら、
ちょうど同じく暇してたコイツに捕まった。

これがあの時のもうひとりの美少女だなんて、
誰が信じるだろうか。

いや、待てよ…。
確かにこいつは可愛い顔をしている。
見れば見るほど女の子みたいだ…。


「いやあ〜知りませんでしたな、
 学部でも一二を争うモテ男の薮さんが、
 女装が趣味でいらっしゃるとは。エッエッ」

「………おめーもだろ」

・→←you wake me up _itajan



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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時

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