エイリアンズ3 _jump×jump (ページ13)

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逡巡する人　_inar ページ13

Your Songショートフィルムパロ.
あの日より1年くらい後の設定.

_side in

「…え？いのちゃん？！」

ガチャンと大きな音を立てながら、
パイプ椅子から立ち上がった大ちゃん。

もし会えたら良いな、なんて
淡すぎる期待が見事叶った。

「なんで？！え、本物？！」

「あは、なんだよそれ。本物だよ」

えー！なんて、目をキラキラさせながら…
あ、袋落ちたよ。

「今そこのビジホ泊まってんだよ。
　この近くの案件やっててさ。
　リサーチで1週間くらい缶詰なの」

「そっかあー！いやー、びっくりした。
　まさかこんなとこで会うとは」

「俺もびっくりだよ」

偶然じゃない。会えたら良いな、と思っていた。

「俺さ、来週ここ引っ越すから…。
　あ、言ったよね。この前。
　なんか最後に良い思い出ができたよ」

くく、と笑う大ちゃん。

その横顔がもう少しで
遠い存在になってしまうと思うと、
何かが喉につかえた。

別に泊まってるホテルにもランドリーはある。
でもここのコインランドリーは、
大ちゃん御用達だから…。

「コインランドリー生活ともおさらばだね」

「そーだよ。次の家すげーんだから。
　招待するからいのちゃんもみんなと来てね」

来週、きみは事務所が用意した
豪華なマンションに引っ越してしまう。

遠くに行ってしまう。
いや距離的にはすぐ近くなんだけどね。
そういうことじゃない距離の話。

「あ、いのちゃん飯食った？」

「会社の人たちと食べちゃった」

「そっかー。じゃあ明日は？明日も来るでしょ？」

これくらいの時間に来るよ、と言えば、
じゃあ髙木の店行こ、と可愛くおねだりされた。

ここに来るまで、考えていた。
大ちゃんのおねだりが昔から可愛いこと。
それを俺は断れないこと。

離れていってしまうことが、こんなにも悲しいこと。

「よし、じゃあ決まり！ちゃん忘れないでよ？」

拾ったふくろにさっさと洗濯物を詰めて、
きみは煌めく星のように
夜の中に消えていってしまった。

残された俺と数脚のパイプ椅子。

洗濯機が回る機械音だけが響く。
いないだけでこんなにも静かな夜だ。

ぐるぐる。廻る服と思考。

ホテルに戻って待ってれば良いのに、
結局乾燥が終わるまで
パイプ椅子から立ち上がれなかった。

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