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ペトリコール _inar ページ1

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大ちゃん知ってる?
雨には匂いがないんだよ。

なのにまるで雨そのものの匂いのように、
嗅覚を刺激してくるこの匂い。


灰色の雨雲が、窓いっぱいに広がっている。


じゃあこれは知ってる?
大ちゃんは俺を好きなわけじゃないんだよ。

なのにまるで俺を好きかのように、
しょっちゅうこの部屋にやってくるきみ。


雨の匂いじゃなくて、アスファルトが濡れた匂い。

好きは大ちゃんじゃなくて、俺の中にある。



数年前、好き放題やってたらすっぱ抜かれた。
まあ当然の報いだと思ったし、そりゃ反省もした。

でも当時、絶対に投げちゃいけないボールを
手の中で持て余していた俺は、
こんなこと取るに足らないことなのに、と。

このボールを投げることに比べたら、
こんなこと、まるで取るに足らないことなのに、と。


そんな俺の姿はどこか飄々として見えたんだろう。
良い加減にしな、と詰め寄った大ちゃんに、
思わずそのボールを投げつけてしまった。



『じゃあ大ちゃんが遊んでくれんの?』



あんなこと、言わなきゃ良かったと今なら思う。
引き結んだ唇と目、忘れられない。

俺はあの時以上に、何かを持て余している。

普通に好きだと言えてたら、
今とは何かが違ってたんだろうか。



 

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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時

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