無理な話 ページ12
「あの頃は就職したばかりで、とにかく仕事を覚えるのに精一杯で自分の事しか見えてなかった」
不思議...
私から見たら
いつも余裕で完璧なサービスをする斉藤さんにも
そんな時代があったなんて
「だから...彼女が不安に泣いていた事も、そばにいて話を聞いてやった俺の友達に惹かれていった事も、別れを切り出されるまで気付かなかった...」
斉藤さん...
「だからあの頃の自分と、竹内さんを泣かせた彼が重なって...ごめんね(笑)」
そう言って斉藤さんは
どこか寂しそうに笑った
「彼にも謝っといて」
斉藤さん...
「さて、戻ろうか。
そろそろ彼も限界じゃない？(笑)」
だからだったんだね
今夜、まるで人が変わったように見えたのは
あの頃の自分を責めていたんだ
「...斉藤さん」
「ん？」
「今でも、その時の事後悔してるんですか？」
さっきの
どこか寂しそうな笑顔が気になった
「いや、さすがに何年も前の事だからね。
ただ思い出しただけだよ」
「そっか、それならよかった(笑)」
「えっ？」
「斉藤さんは私にとっても大事な先輩だから(笑)」
そんな辛い想いを
いつまでも引きずって欲しくはない
「竹内さん...」
「さて、戻りましょうか！」
斉藤さんの、ちょっと切ない過去の話を
分かち合えたところでそう言うと
「待って」
「えっ...」
「やっぱり忘れ物」
ちゅっ...
突然感じた、温かい感触
・・・斉藤、さん？
「過去の自分に重なってたのは確かだけど、俺にとっても竹内さんは大事な後輩。
だから他の人とキスした彼にはやっぱり痛い目見てもらわないと(笑)」
今、ほっぺに...キス
「気にしてるんでしょ、竹内さん。キスの事」
斉藤さん
やっぱり気付いてたんだ...
予想もしてなかった事に固まる私を他所に
斉藤さんはにっこり笑うと
「あ、彼が来た。殴られたくないから行くよ。
じゃあ、末長くお幸せに(笑)」
そう言って、颯爽と私の前から姿を消した
そしてそんな斉藤さんと入れ替わるように
後ろから聞こえてきたアイツの声
「ハァハァハァッ...！
あれッ！斉藤のヤツどこ行った！！今の今までここにいたのに！僕のAさんに何をした！！」
見てたんだ...
「逃げるなんて...
逃げるなんて、この卑怯ものぉー！！！」
斉藤さん...
末長くお幸せにって
そんなの、恐くて後ろも振り返れない私には
無理な話でしょ...
はは、は...(笑)
「はぁ...」
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作者名：ami
| 作成日時：2015年6月27日 10時
