＊ ページ16
.
｢それが何なのかは知らんけど、それを持つ人間を俺はもうひとり知っとる。だから俺は、あんたが敵やないって言うならそれを信じられる｣
｢……信用に値する程のものであるなら、つまりは意味を知っているのでは？｣
｢んや、知らんよ｣
おかしなことを言う。同じものを持つ者がいようとも意味を知らないのでは、こんな刺青はただの傷痕に過ぎないというのに。
｢見せられたら、気になってまうやろ。このままやとぐっすり眠られへんやんか。なあ、教えてや｣
｢知らないのであればそれでいいです。ただ信用をとれればそれ以上に価値はありません｣
｢……なら無理にでもその口、割らせたろか？｣
｢っ、！｣
するする、薔薇をなぞって弄んでいたゾムの指が途端に首へ掛かる。喉元を親指に押し込まれれば簡単に気道が潰れて僅かな酸素だけが喉を抜けた。
見てないで助けてください、そんな目を傍で立ち尽くすトントンさまへと向けるが、一瞬重なった視線はすぐに外された。彼も同じく好奇心を抱いたか、それともゾムと違ってまだ信用には足らないのか、どちらでもいいが非常に困った状況だ。
さて、どうしたもんか。叩きつけられた頭のダメージも中々に大きく、呼吸も徐々に浅くなる。ため息もつけなくてグルグルと思考を回していた、そんな時。
｢そこまでだ。ゾム、離してやれ｣
｢わんっ｣
｢…………わ、ん？｣
ピタリ、思考が止まる。呼吸も止まる。
顔はそのままに、視線だけをゆっくり、ゆっくりと左にやった。そうして視界の端に捉えたのは私をまん丸の瞳で見つめる白い毛玉だった。硬直し、ややあって私は掠れきった叫び声を上げる。
｢わふっ｣
｢ッい゛、犬ぅッ！！？ っげほ、｣
｢ふは、相変わらず犬は苦手か｣
｢〜〜〜っぐ、るっぺん…！｣
そう、毛玉は犬である。その犬を腕に抱いて私の傍にいつの間にやらしゃがみこんでいたのは、くつくつと喉を鳴らし笑っているグルッペンだ。
私は、世界で二番に｢犬｣というものが嫌いなのである。そしてグルッペンはそれを知っていて、私の目と鼻の先に小さな犬を寄せているのだから本っ当に性格が悪い！ ゾムは大人しく私の首に掛けていた手を離したが身体に跨ったまま動こうとはないので、べろんっと頬を舌で舐める犬から逃げ出すことが叶わない。最悪だ。これは拷問にも等しい仕打ちである。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1147人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫紅兎(プロフ) - 夢主ちゃんのキャラがちょうどいい感じに濃くて素晴らしいですね！tntn様との絡みも大変微笑ましいです…過去に何があったのかも楽しみで色々考察しちゃいます、読むたびにマフィアパロって良いなぁと堪らなくなります、更新楽しみにして待ってます (2021年7月3日 1時) (
レス) id: fcae62d2ac (このIDを非表示/違反報告)
リノ(プロフ) - あの………語彙力ないので簡潔にまとめるとですね……………とっっっっっても好きです。 (2021年5月27日 19時) (レス) id: 19366b94fd (このIDを非表示/違反報告)
リュウ - ヤベェおもしれぇですよ(？)更新頑張って下さい！！！！好きです！！！ (2021年5月24日 22時) (レス) id: fa1fb43e66 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 夜空さん» 夜空さん、ｺﾒﾝﾄありがとうございます~~！ かなりｷｬﾗが濃い夢主ちゃんなので尊いとまで言っていただけてとっても嬉しいです！ ゆっくりではありますが更新がんばります~~！ (2021年5月16日 20時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
夜空(プロフ) - ゆゆゆゆゆ夢主ちゃんが尊い(*´ω｀*) そうゆう性格の女の子の方が私は好きだよ←(何目線??)更新頑張って下さい!!!!! (2021年5月15日 17時) (レス) id: 947663e2d0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
