それは心の奥底に ページ39
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｢A｣
ガラガラ、洗濯機が回転するのをぼうっと見つめていた。何だかいつもより疲れた気がする。そんなことを考えながら。
｢……おい、A｣
｢んうぇ、っ｣
突然ぐいっと肩を引かれて間抜けな声が洩れた。一歩後ろによろけた私の身体はとん、と壁に、いや、背後にいたトントンにぶつかって転ぶことはなかった。
｢戻ってこないと思ったら……なにぼけっと洗濯機眺めとんねん。見たいって騒いどったドラマ始まるけど｣
｢あ、うそ。すぐもど、｣
るよ、と続けたかったのにキュッと喉が縮まって声が出なかった。笑って振り返った先。首を傾いで私の顔を覗き込もうとしていた彼の顔がすぐそこにあったのだ。
お互いに目を見開いて、沈黙。
数センチの距離で視線がぶつかり合って、突然早まった心音が彼に届いてしまいそう。
視線を逸らしたら負け、そんな子供じみた考えがふっと浮かんですぐに溶ける。こんなのは、負けでいい。私は堪らず視線を床に落とした。視界の端で彼の口角が僅かに吊り上がるのは見えてしまったが。
｢……俺のかち｣
｢……子供じゃん｣
｢ふは、そうやな。俺はいつまで経ったって十六歳の頃のままやで｣
｢は、？｣
｢……いや、あの頃とはもう比べ物にならへんか｣
｢え、…っちょ、！？｣
意味のわからないことを言いだしたトントンが不意に私の肩を掴んでぐいっと押し込んだ。そうして洗濯機に私の背中をぴったり押し当てて、私の体を挟み込むように彼の両腕が洗濯機につかれる。壁ドン、いや洗濯機ドン、？ 何してるんだこいつ、というか近い、でかい、なんて動揺しているうちにトントンは言葉を続けた。
｢蒸し暑い夏。喧しい蝉の声。汗で張りついた制服。……お前の、泣き顔。あの時のこと、よう覚えとる。十年経ったって俺は忘れられへんかった｣
｢な、にいってるの？｣
｢……ごめんな｣
こつり、彼の額が、私の額と合わさる。
なにに謝ってるのか、わからない。どうしてそんな寂しそうな声で言うのか、わからない。けれどどうしてかその言葉を、声を聞いた瞬間はどうしようもないくらいに胸が苦しかった。
｢……けど、安心した。その調子なら俺は期待しとってええんかな｣
｢言ってる意味が、｣
｢はやく、認めてや｣
負けたって、言ってくれ。
｢⎯⎯⎯っ！｣
まけ、……私が、負け？
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るな？ - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました！ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか！？ (2022年3月5日 2時) (
レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜！みんなドキドキしてくれ！の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…！本当にありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜！イッキ見！楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…！最後までありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
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