勝算なんてお前が食った ページ22
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｢なんちゅう朝や｣
真っ赤な顔して、ぷりぷりと怒ってリビングへと逃げていったA。残された俺は多少痛む頬を撫でながら布団に転げて天井をぼうっと眺めていた。
寝起きで、上手く頭が回らなくて。口が勝手に動いてもうたんや。けど俺のせいやない。朝からちょっかいかけるあいつが、わるい。
今になってじわり、じわりと羞恥が襲いかかって、顔にのぼった熱を追い出すようにため息ひとつ。
｢……ほんまにばかやで、お前｣
大人しくキスのひとつくらいしてやったら、あいつも素直になるだろうか。なんて、そんなことを思わなくもないが、それじゃあ俺が負けたみたいで嫌だった。
(⎯⎯⎯このままじゃくやしいもん)
お前が落ちろ、ばかA。なんで俺がお前に落とされなきゃならんねん。Aはただの幼馴染。幼馴染以上には見れない。見たくない。見ちゃ、いけない。
今のお前に、負けたくなんてないねん。悔しいのは俺や。どれだけ俺がそんな思いをしてきたかお前は知らんやろな。だから、平然と馬鹿なことを抜かす。
顔に涼しさが戻った頃、妙に重たい身体を起こしてリビングへと向かう。普段の起床時間より少し早い。Aは悠長にソファーに転げて天気予報を眺めていた。
｢A、言うとくけどお前の分の朝飯ないで｣
｢は、！？なんで！？｣
｢急に押しかけて来たからに決まっとるやろ｣
｢……おなかすいた｣
｢……早めに出てコンビニでもいこか｣
｢頭いい。その手があった｣
あんなことがあった後でも少しの時間があれば俺たちは何事もなかったかのようにいつもの幼馴染に戻る。だから、駄目なんや。
｢寝癖、すごいで｣
｢んふ、トントンの方がすごいですう｣
｢いやお前の方が芸術点高い｣
｢いやトントンの方が爆発力すごい｣
けらけら、気の抜けきった笑い方。ああ、そうや。お前はいつもそうやって間抜けに笑っとればええのに。
あの日から逃げるように、お前が違うお前を作って隠すから、嫌だった。俺のせいだと分かっているからこそ余計に意地が勝る。
俺も、お前も、負けず嫌い。似たもん同士で面倒な幼馴染。いつかはどちらかが折れなきゃ始まらない何かを待つのは、正直疲れてきたところだった。でも、
｢嫌いやないで、お前のこと｣
馬鹿に聞こえないように、そうっと劣勢の合図。はなっから大きく優劣のあった意地の張り合い。それでも俺はAに、負けたくない。
今の、お前に負けたくない。
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