悔しさなんて ページ21
.
私じゃなかったら。ここにいるのがあの子だったら。私が可愛く起こしてあげられてれば。ぐるぐる、厭なたらればが頭を駆け巡って堪らなく悔しくなる。
｢……腕。痛いよ、ばか｣
｢朝から俺を絞め殺そうとするお前がわるい。ほんま、なに考えとんねん。まだ酔っとるんか｣
そういいつつも私の腕を掴んでいた手がそっと力を和らげる。しかし私を見下ろす目に優しい柔らかさなんてない。当たり前だ、寝起きにあんなことされたら誰だって怒るに決まってる。わかってる。わかってるけど、心底悔しい。あの子のようになれないことが、ほんとうに。
｢……わたし、決めた｣
｢なに？｣
｢あのね、本気の本気でトントンのこと落としてやろうと思う。このままじゃくやしいもん｣
｢……は、？｣
｢猪女なんて呼んだこと。後悔するくらい私のこと好きにさせてやる｣
くやしい。けど、私は馬鹿なくらいに負けず嫌いなんだ。負けない、負けたくない。だって私は誰よりもトントンの傍にいた幼馴染だもん。知らないことがあるってすごく悔しい。私なんて目もくれずに他の子を好きになるなんて本当に悔しい。
負けてなんて、やるもんか。
もう一度宣戦布告だ。そういうように、私の肩を床へと押しつけている彼の腕にひとつキスをする。今に見てろ、ばかとんとん。
｢……ほんまに、わからんやつやな｣
｢なによ｣
｢ばかA。お前は俺の知る限り誰よりも馬鹿で、阿呆で、頑固で、わからず屋や｣
｢喧嘩売ってる？｣
｢売っとるよ。お前が買うって知っとるから｣
するり、解けた彼の手が私の頬を滑って、ぎゅっと摘まれる。間抜けな顔に見えたんだろうか。顰められていた彼の顔に小さな笑みが浮かんだ。
｢A。お前が俺を好きにならへんのなら、俺やってお前を好きになんてならへんよ。言うたやろ、不公平やって｣
｢……は、｣
｢ほんまに、俺を惚れさせる気あるん？｣
小さな笑みが、挑戦的な笑みに変わるのを見た。その瞬間私の顔はどうしてか火がついたように熱くなって、仕方なくて、
｢⎯⎯⎯ッばかとんとん！｣
｢い゛っ、！？｣
バチンッ！と、自由になった手で柔そうな頬を引っぱたいた。
だって、だって、トントンが、らしくもないこと言うから。いや喧嘩腰なのはいつものことだけど、そんな、っ、ちょっとドキドキしちゃうようなこと言うな！
｢理不尽や……｣
そんなの、聞こえない。ばか。ばか。
心臓が、うるさいんだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 934人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
るな？ - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました！ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか！？ (2022年3月5日 2時) (
レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜！みんなドキドキしてくれ！の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…！本当にありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜！イッキ見！楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…！最後までありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
