夕暮れどきの悪い夢 ページ15
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私は、知らなかった。
「……おい、A」
「……」
「A、」
「…………っ、だ、誰よあの女ーッ!!?」
私は電柱の影に隠れていた。更にその後ろにはたまたま一緒に会社を出たグルッペン。若干狼狽えたような彼の声を聞きながら、目にしてしまった信じ難い光景に悲鳴を上げた。
卒倒しそうだった。
金槌で頭蓋を殴られたようだった。
トントンが、見知らぬ女の子と仲良く微笑みを向けあいながら歩いているのである。
「なに!?あいつ、なに!?」
「落ち着けA、周りからの視線が痛い」
「トントンの癖になんであんな可愛いの権化みたいな女と並んで歩いてる!?ねえグルッペン!!」
「むなぐらをつかむなゆらすな」
がすがす、掴みかかったグルッペンの胸倉を揺すり叫ぶ。既にずっと遠くを歩いているトントンには聞こえないだろうが、私たちの横を通り過ぎる人々は訝しげな視線をこちらにくれていた。しかし気にしちゃいられない。叫ばずにいられない。だって、だって、
「あんなっ……あん、な、優しい顔、私は知らない」
「……」
「トントンのことで知らないことなんてないと思ってた、のに、……私の知らない顔みせてる」
女の子と並んで歩いてる、それ自体は別にどうでもよかった。きっと彼女は同僚か後輩だろう。トントンとは職場が違うので私の知るところではない。……いや、どうでもよくは、ないか。
それよりも問題は可愛らしいその女の子に向ける彼の表情である。私と一緒にいる時には見せない、酷く柔和な笑みだったのだ。
「ぐ、ぐる、グルッペン、」
「……はあ。帰るゾ」
「ぐるぐるぐる……」
「壊れたか」
だって、知らないことを知りたくなかった。私が誰よりもトントンのことを知っている自信があったから。私の知らないことを、他の女の子が知ってるなんて知りたくなかった。私の、幼馴染だから。
大先生の言う「近すぎて気づけないこと」というのはこういうことなんだなぁ、と、寂しさと何か言い様のない息苦しさが胸に広がり目眩まで連れてくる始末。
「……見たくないなら見なきゃいい。知りたくないなら、全部忘れろ」
「っへ、」
突然、チカチカしていた視界が暗闇に覆われた。グルッペンの手が私の目を覆い隠したのだ。次に視界が開けた時、どこにもトントンと女の子の姿はなく。
「そうだ、忘れてしまえ」
そう言ってどうしてか意地悪そうに口角を吊り上げるグルッペンだけがそこにいた。
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るな? - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました!ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか!? (2022年3月5日 2時) (レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜!みんなドキドキしてくれ!の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…!本当にありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜!イッキ見!楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…!最後までありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
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