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「忘れていくことを怖がらなくてもいいと思うんです」
ふわりとした優しい声色。
なんで。どうして。そんなことを言うの。
ぐちゃぐちゃに乱れた私の心は降谷くんの言葉に疑問を抱いてしまう。
「人の脳は、時間が経つにつれて忘れていくようにできています。これは仕方のないことです」
仕方ない。そんな簡単に割り切れるはずがない。
けれど彼もまた、友人たちを亡くしていることを私は知っているから。
一体降谷くんは今どんな気持ちで話しているの?
「形として残らない記憶や思い出は、生きている側が折り合いをつけるしかないと思うんです」
こちらに体を向けた降谷くんをゆっくりと見上げ視線を合わせた。
「Aさんは、萩原のことを忘れていくことが怖いから、それを感じないように萩原のことを考えないようにしていたんですよね…?」
「……はい」
ドクドクと心臓が強く鳴る。
降谷くんの目元は優しく下がった。
「僕と時々でいいのであいつらの話をしませんか?」
「えっ…」
大きく目を見開いても彼は優しい表情を変えることなく続ける。
「Aさんの話を聞く限り、忘れたくないと思うほど忘れられなくなっているように感じるんです。
思い出して、誰かとその話をして、共有するんです。あんなことがあったな、こんなことがあったなって。
そうやって思い出を思い出として認識して、悲しみを乗り越えて残された側は生きていくんだと思います」
降谷くんの穏やかな表情にはっとして、また涙が零れそうになった。
「…罪悪感が…あるんです。研二の時間はあの時からもう進むことはないのに…私だけ、進んでいくことに……っ、いや、違います…」
違う、本当は。
「本当は、怖いっ…。一人になることが、研二を一人にすることが…。
研二のことを思い出すと、一緒に住んでいた部屋で…あいつは、笑顔でそこにいるんです…。私もずっと…そこにいたいんです…」
ぼろぼろと落ちる涙の数を少しでも減らそうと耐えながら声を震わせて出た本音はあまりにも自分勝手だなと思えた。
静かに相槌を打っていた降谷くんの
「駄目ですよ」
その一言にまたはっとして、今度は涙が止まった。
「それじゃああなたが前に進めない」
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理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時