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追憶// ページ42

夜になって、ただいまと扉が開くことはなかった。

寝て、起きて。隣に研二がいなかったら、研二が死んでしまった現実を認めなければいけない気がして、眠るのが怖かった。


それでも気づいたら意識が落ちていて。


ハッと起きて隣を見た。部屋を見渡した。どこにも、研二の姿はなかった。

ただ真っ暗で空っぽな部屋が一層私を深く深くに沈み込ませた。



松田くんからのお通夜が行われる場所と時間の連絡を見ても行く気にはなれなかった。


私はまだ研二の死を受け入れられていない。

それなのに研二と別れなければいけない場に行くことが、とても恐ろしかった。


研二の部屋着を抱き締めればまだ匂いがするのに。目を瞑れば研二がそこにいるのに。

声も。交わした言葉も。会話も。ぬくもりも。積み重ねた思い出も。


私の中にまだ残っているのに。この部屋にまだ残っているのに。


研二は私の記憶の中でまだ、生きているのに。



でも、行かなきゃ。空っぽの頭でふとそう思った。

だけど行ったところでどうしたらいいんだろう。


覚束無い足取りでそんなことを考えていたら気づくと目的の場所まで来ていた。

そこへ踏み入れるほどの気持ちの整理はまだついていない。

スーツを着た強面の人たちは警察の人たちだろうと、遠くからぼんやり眺めた。


本当に研二は死んでしまったんだ。


途端、込み上げてきた嗚咽を飲み込んだ。今の今まで涙は出てこなかったのに。

ようやく込み上げてきたそれを流してしまったら、もう二度と研二とは会えない気がして堪えてしまった。


突きつけられた現実に耐えられなくて、目を背け踵を返し、ふらふらと来た道を戻っていく。


思い出が詰まったあの部屋に。研二と過ごしたあの部屋に。

ずっといたい。忘れないように。消えないように。研二との思い出にずっとずっと溺れていたい。









一人の男が、遠ざかる女の背中を見つめていた。


『松田、どうかしたか?』


ゆっくりと煙を吐き出して、男は言った。


『萩原のことを伝えても、あの人…泣かなかったんだよ』

『…心配だな。今日も来てないようだし…』

『さっき見つけた。…なんか、抜け殻みたいだったよ』

『……そうか』

『…あの人、泣いてねぇんじゃねーかな』




身を隠すようにその会話を聞いていた男が二人、静かにその場を後にした。

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理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時

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