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振り返るとやはり声の主は安室さんだった。
なんだろ。私まだ何かやらかしてたかな。
咄嗟にそんなことを思ったのだが
「レシートを渡しそびれてしまって」
控えめに差し出されたそれを見てどうやら見当違いだったようで安心する。
レシートくらい全然捨ててくれても構わないけど外まで追いかけて渡されたら受け取らない選択肢はない。
「わざわざすみません」
安室さんって真面目なのかな。きっちりしてるというか。
そんなことを思いつつありがとうございますとへらりと笑いレシートを受け取ると
「よかったらまた来てください」
綺麗な笑顔で安室さんはそう言った。
社交辞令で他のお客さんにも言ってるんだろうな〜。でも安室さん目当てでお客さんは結構いそう。
なんて。客寄せパンダみたいと失礼なイメージを張り付けて「是非」と返答し
会話はここで終わった。
「…たしか、ケーキ好きでしたよね」
と、思ったが少し低く控えめなトーンで言葉を続けた安室さんに思わず顔を上げた。
「…っ」
笑ってるのに。
彼は笑ってるのに、視線は、射貫くような鋭さを覗かせていた。
思わず蛇に睨まれた蛙の如く体が固まる。
けど全て私の考えすぎだったと思うほどすぐにお店で見たような笑顔になった安室さんは
「じゃあ、また」
くるりと背中を向け会釈をした。
何か。何か言わなきゃ。
そう思うのに。展開が早すぎて何も出てこない。
引き止めたところで何を言えば、どうすればいいかもわからない。
ただ辛うじて出てきた「あ…」と言葉にもならない音は
「待ってますね、Aさん」
彼を前にしてひどく滑稽だと感じた。
心臓がどくりと大きく脈を打つ。
私は今日名乗っていない。
名乗っていないのに彼は私の名前を知っている。
彼は、
私を知っているんだ。
そして私もやはり彼を知っているんだ。
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理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時