38 ページ38
「・・・・・・・勘違いじゃないし。」
私が吐いた溜息ほどの、小さな声がした。
思わず顔を少し上げる。
翔の目が、私を見ていた。
翔の唇が微かに動く。
「俺は、もう一度Aと会いたいって思ってたよ。」
喉の途中で、言葉が塊になる。
引っ掛かって、吐き出すことも、飲み込むこともできない。
私も。
私も、会いたかったよ。
もう一回翔と会えたら、って思ってたよ。
だけど、それを声にすることができない。
私から別れたのに。
私から離れたのに。
そんな都合のいい、勝手なこと言っちゃいけない気がして、言えない。
視線と想いが宙を泳ぐ。
「・・・・・・おまえ、やっぱ変わってないわ(笑)」
翔の人差し指が伸びてきて、鼻まで被ったストールに引っかけて下げる。
吐き出す息が白い空気となって、外の世界へと飛び出す。
「言いたいことあるのに、そうやって飲み込むの。」
私の口から、鼻から洩れる息が、翔の指にかかる。
恥ずかしいから、その指取って。
震えてるのがバレてしまう。
「・・・・・・そんで、ちょっと泣きそうな顔になんの。変わんない(笑)」
違うよ。
泣きそうなのは、そうじゃないよ。
翔が、私の大好きだった翔のまんまの顔で笑うから。
それが嬉しくって。
その翔が見えなくなってたあの頃の自分を思い出して。
それが切なくって。
だから泣きそうになってんのに。
そういう、ちょっとズレてるとこまでもが、あの頃の翔のまんま。
「代わりに俺が言ってやろっか？」
「・・・・・何を？」
翔はちょっと考える顔をした後、ニマッと笑って、少しだけ顔を近付けた。
「ま、それは後で(笑)」
「何よ・・・・それ。」
「それより、せっかく穴沢が気ぃ効かせてくれたんだし、とりあえず行かね？」
そう言って、クルリと向きを変え歩き出そうとする。
「ここじゃタクシー拾えねぇなー。大通りまで出るか。」
翔がスタスタと歩き出す。
「ちょっ・・・・！」
翔、待って！！
思わず言いかけて、口をつぐむ。
外で名前を呼びかけない習慣は、いまだ体に残っていた。
翔の顔が、こちらを振り向く。
そのタイミングも昔のまんまで。
「行くぞー。」
笑ってこっちを見て、私を呼ぶ。
それがどうしようもなく胸を掴む。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 293人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
羊羽(プロフ) - うさぎ丸さん» 初めまして☆こちらこそ、読んでいただいた上に嬉しくなる感想いただいちゃって感謝カンゲキ雨嵐です。楽しんでいただけたならこれ幸い、書いた者冥利に尽きます(○´艸｀)他のものも楽しんでいただけると嬉しいです♪ (2015年6月27日 9時) (
レス) id: 9e1708fadb (このIDを非表示/違反報告)
うさぎ丸 - 初めまして！櫻井担です♪素敵なお話、ありがとうございましたm(_ _)mこんな素敵な作品を読めて嬉しかったです♪作者名から羊羽さんの他のお話、拝見しに行きます(^o^)v (2015年6月26日 18時) (レス) id: af0ac92990 (このIDを非表示/違反報告)
羊羽(プロフ) - ポヨリンさん» こちらこそ、嬉しい感想ありがとうございます〜〜！深謝☆ (2015年3月10日 11時) (レス) id: 9e1708fadb (このIDを非表示/違反報告)
ポヨリン(プロフ) - お疲れ様でした。素敵な作品をありがとうございますm(_ _)m (2015年3月8日 23時) (レス) id: faa9497605 (このIDを非表示/違反報告)
ポヨリン(プロフ) - 羊羽さん» ぜひ！来てください！今、更新真っ最中です。ぼちぼちしか更新していませんが一言いただけるとありがたき幸せ。 (2015年2月28日 11時) (レス) id: faa9497605 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：羊羽
| 作成日時：2015年2月10日 14時
