私の推しは冷めています。【桃】

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ライブが終わって数日、私はボケーッと日々を過ごしている。もぬけの殻というか、まあ魂が完全に抜けてしまった。オタ友とライブの感想を話してる時は思い出しては胸がギューッと締め付けられる。


「あー、早く円盤化しないかなぁ」
「……なにがですかぁ？」
「へ？ えっと、」


　職場だと言うのに佐久間君の事を思い出して、ついポロッと溢れた言葉に通り掛かった”彼女”に訊ねられてしまう。


「清水さん、」
「先輩、もしかして……」


　出来ればあまり関わりたくない相手である清水ユカリさん。元彼の婚約者。
　お金持ちで見た目も可愛らしくて、そして”元”私の好きだった人を奪った後輩。綺麗に巻かれた長い髪を耳にかけながらじーっと私に顔を寄せてくる。な、なによ……と、一歩引く。


「推しとか居ます？」
「えっ、」
「ふふ、その様子は居ますねぇ。うーん、そういえば先輩ってあまりピンクってイメージ無かったのに最近やたらとピンク色のアイテム持ちますよね？」
「そ、そうかな〜」


　鋭い。確かに佐久間君を推すまではピンクなんて私には似合わないと思って避けていた。どちらかと言えば、ふっかさんやしょっぴーカラーが今でも好きだ。でも推しって凄い影響を与えてくれる。この前なんて買い物して帰ったら付箋やらノートやら買った物がピンクだった。無意識だ。怖い怖い。


「あ、そういえばこの前珍しく金曜日休んでましたよね。もしかして、スノーマン……」
「あー！ 私これから午後の会議の準備するからまたね！」
「え、せんぱーい！」


　ヤバい。当たってるよ。
　出来るなら職場では知られたくない。これまで面白みのない真面目な女で通っていた私が、彼氏に捨てられた途端にアイドルオタクになったなんて。慌てて廊下に出て壁に手を付き息を吐く。
　自分で言っていて悲しくなってくるなぁ。


「ほんと、私何が楽しくて生きてたんだろう……」


　ただ周りに流され、彼氏に合わせて生きてきた。それが普通だと思って疑っていなかったから、その時はそれなりに楽しくて幸せだったはず。
　でも今ではあの頃の私の笑顔は全然思い出せないんだよね。もしかしたら無理していたのかも…………

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