私の推しは冷めています。【桃】

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入場するまでずっとスマホを握り締めてちゃんと入れるかなってドキドキして、チケットが出てくるのを待ってるのもドキドキして、もちろん座席を確認する瞬間もドキドキした。場所はスタンド席中辺りだったけど、全体が良く見えるし良いかなって。問題は佐久間君が気付いてくれるのかってことだ。


「ううっ、緊張する〜」


　私がライブするわけじゃないのにおかしな話だよね。でも始まるまでずっとソワソワして落ち着かなくて、何度もペンライトが点灯するか確認したり団扇をどう持てば良いんだろ？ ってあれやこれや持ち替えてみたりして時間を過ごした。そうこうしているうちにとうとう会場は暗くなり、盛り上がりも凄くなっていく。

…………いよいよだ！！！！


　音楽と共にスノーマンが現れて、すぐに佐久間君が何処に居るか分かって。私の瞳には佐久間君しか映らなかった。
　同じ会場の中で、すぐ近くで歌って踊っている佐久間君。かっこよくてかわいくて、色んな表情を見せてくれる彼に思わず見惚れていると、佐久間君が手を振りながら近くまでやって来るのが見えた。急いでカンペ団扇の準備をした。

　急げ急げ！ と内心焦る。手が二本じゃ足らないんだけど。少なくとも後更に二本追加要望するね。……と、そんな事言ってる場合じゃなくて、そろそろやってくる佐久間君に向けて彼の団扇をまずは振る。顔の前で必死に振っていれば、佐久間君がこちら見た気がして、今だと思ってカンペ団扇を前へ出した。

　お願い届いて！！！！


　”佐久間くんのおかげだよ”、”あの日助けてくれて”、”ありがとう”。
　佐久間君の動きが止まった。


「…………」


　”私は佐久間君に”、”ハマったおかげで”、”人生変わったよ！”と、次々に団扇を捲って行くのを佐久間君はジーッと見上げていた。

　ねぇ、読めた？ 文字分けたけど、見えにくいかな？ 私の気持ち届いたのかな。ドキドキしながら佐久間君をひたすら見詰めていると、そこれ渡辺君がやって来て佐久間君を引っ張って行こうとしていた。あ、曲が変わった。
　やっぱりダメだったか、距離があったのかもとグッと唇を噛んでいたら、佐久間君が振り返って手を上げた。
　掌をヒラヒラさせて、直ぐにグッと親指を立てた。それを見た瞬間、ぶわっと涙が溢れた。
　届いた！ 私の言葉が佐久間君にきっと届いたんだって。

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